2021年 09月 09日
「第6次エネルギー基本計画」案は原発に依存したまやかしの計画
小坂正則
「原発ゼロ」を1日も早く実現させるためにパブコメを集中させよう
昨年10月より総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において議論が交わされてきた「第6次エネルギー基本計画案」が7月21日に発表されて、9月3日~10月4日までパブリックコメント(意見公募)の受け付けが始まりました。この案はパブコメを受けて10月には正式に決定される予定です。私たちがパブコメを書いても、のれんに腕押しで、何の変更もされない可能性は大なのですが、黙っていては経産省と資源エネ庁に「多くの国民に支持されました」というコメントの下に粛々と原発依存のエネルギー政策が進められることになるのです。少なくとも、私たち国民は「政府のエネルギー計画案には反対である」という意志を示して、マスコミや政治家へのプレッシャーとするべきでしょう。政府や自民党が今でも公式には「可能な限り原発依存度を低減する」と言わせて、「新規の原発建設」を表明できない理由は、これまでの国民の「脱原発」の声に怯えているからなのです。
私たちの「脱原発」の声をパブコメに集中させて、「原発ゼロ」を表明している「共産党」や「社民党」や「れいわ」などにはエールを送り、連合の顔色を伺って、明確な「原発ゼロ」を表明できない、野党第一党の枝野幸男党首のお尻を叩く意味においても、脱原発の多くの市民の声をパブコメに集中させる意味は大きいと思うのです。
これまでの「エネルギー基本計画」
2002年から3年ごとに見直しがされる国のエネルギ政策の基本方針です。2011年の3.11福島原発事故前の2010年の第3次エネルギー計画は、「2030年までに原発依存度を53%まで引き上げる」というとんでもないものでした。しかし、2012年の民主党政権時には「原発ゼロ」を打ち出した基本計画を作ったものの、閣議決定できないままに終わった幻の基本計画になってしまいました。その後、安倍政権になって、2014年の基本計画では原発をベースロード電源と位置付けて、「原子力は必要不可欠のベースロード電源」と決めつけました。その後、2018年の計画では2030年度までに、再エネ電力を22~24%で、原子力が20~22%と決めました。つまり自然エネ電力の最低と原子力の最高は同じ値にしなければならばい理由があったのでしょう。それは「原子力村」と言われる、電力会社や鉄鋼などに御用学者と自民党の政治家などの顔を立てる必要に駆られたのです。しかし、2010年から2020年にかけて、原子力が25%から4%へと大幅減となる一方、再エネは9%から22%へと大幅増で、2030年の目標を10年前倒しで、再エネ電力は増えてしまったのです。このように政府の都合の悪い再エネ電力は、国が誘導しなくても増えてしまって、「原子力村」の頼みと綱の原発は何と、稼働中が9基で僅か4%しか占めていないのです。4%の電力など止めてしまっても何ら市民生活に不都合はありません。
第6次エネルギー基本計画の問題点
今回出された「第6次基本計画」では2030年までに再エネ電力が36~38%で、原子力は相変わらず、20~22%と、その比率は前回までの目標を捨てていません。仮に原発の電源構成で20%を達成しようとするなら、およそ27基程度が再稼動している必要があるのですから、これから再稼働が予定されている原発を動かしただけでは足りずに、新規原発を建設する必要があるのです。そんな危険な原発など全国で立てさせる自治体などはないでしょう。
さて、政府は立て前上は「可能な限り原発依存度を低減する」とは言いつつも、本心は「原子力を積極的にすすめたい」と思っているのですから、可能な限り原発再稼働を行い、新規原発も立てたいという思いが、今回の第6次計画にも原子力の部分が随所に出てきます。
その大きな1つが2030年の電源構成比で、原発の電源が20~22%という目標です。そして、「原子力は、燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である」と述べているのです。そして、「我が国においては、原子力発電開発のため、人材・技術・産業基盤の強化、安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発を進めていく」と宣言しているのです。また、世界中で脱原発へと進んでいる中で、「世界の原子力安全の向上や原子力の平和利用に向けた国際協力の推進」を行うとも述べています。また、新規原発の開発について、「米英加を始めとした先進国では小型炉、革新炉に活路を見出し、2030年前後の商用化を目指して大規模政府予算を投入して研究開発を加速している。こうした海外動向も踏まえ、海外の開発プロジェクトに高い製造能力を持つ日本企業も連携して参画するとともに、国内においても、水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉をはじめ、安全性等に優れた炉の追求など、将来に向けた原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発や人材育成を進める。」と述べて、小型高温ガス炉などの開発も行うと言います。自民党・政府のいう「可能な限り原発依存度を低減する」とは真っ赤な嘘ではないですか。
日本政府の「2050年二酸化炭素実質ゼロ」は空手形
安倍晋三前政権が15年に決定した二酸化炭素削減目標の「13年度比26%減」を今回は「13年度比46%減」とし、「可能なら50%の高みに向けて挑戦を続ける」との新たな方針は随分改善されてはいるのですが、どうせ29年後の2050年には自民党の政治家も政府の役人もほとんど生きてはいないので、「そんなもの言ったもの勝ちだ」と、言いぱなしの感があります。なぜなら実行計画が不十分だからです。この計画によると「2050年の発電量の約50~60%を太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の再生可能エネルギー、水素・燃料アンモニア発電を10%程度、原子力・CO2回収前提の火力発電を30~40%程度」としているのです。つまり火力発電は30~40%残して、そこで出た二酸化炭素は地中の埋める計画というのです。またCCUSによる炭素貯蔵・再利用を前提とした火力発電といったイノベーションを必要とする計画です。
このCCUSとは火力発電所で出た二酸化炭素を分離して地下深くに貯蔵するという計画なのですが、そのためには莫大な費用がかかりますから、その分だけ石炭火力発電の発電コストが高くつくのです。また地震国の日本で地下に埋めた二酸化炭素が地震で漏れ出したら何の意味もありません。それに「石炭火力の20%混焼技術の実機実証を進めつつ、NOx排出量を抑制した高混焼バーナー等、専焼化も見据えた技術開発を行う」と言い、石炭火力発電を日本政府は開発して世界中に輸出しようとしているのです。
2030年二酸化炭素46%削減は眉唾
「2050年に二酸化炭素実質ゼロ」のためのロードマップが2030年二酸化炭素削減46%です。しかし、各国の削減目標はそれぞれ日本よりも大きな目標を立てています。まずEUは1990年比55%削減目標です。英国は同じく78%削減目標です。しかし、日本は2013年比46%なのですが、これを1990年比に直したら、実際は39%しかありません。英国の半分以下です。EUの約2/3です。なぜ大幅な削減が必要かというと、国連の2050年に実質ゼロでは2100年には世界の平均温度は2度ほど上がると言うのです。1.5度以内に収めるためには2030年に80%削減が必要だと言っているのです。2018年にIPCCは、2030年までに石炭の消費の2/3を減らし、2050年には実質ゼロにする必要がある、と言っています。そしてそのときには自然エネルギーが70~80%といいます。
また、2019年にIPCCが決めた行動目標では「1人当たりの電力消費量を2025年までに20%、2030年までに35%削減するとともに、電力調達に再生可能エネルギーが占める割合を2025年までに40%、2030年までに80%へと高めるべきだ」と言います。つまりはこの日本の46%削減では不十分なのです。
日本政府は環境税の導入を
読売新聞2021/03/01によると「炭素税本格導入を環境省検討、税率を段階的に引き上げへ」とあります。しかし、経産省は環境税(炭素税)導入には後ろ向きです。
経済産業省の長期温暖化対策プラットフォームの報告書では、(エネルギーにかかる税収4.8兆円を我が国全体のエネルギー起源CO₂排出量11億トンで割り戻すと)T-CO₂当たり4,000円の税がかかっていると書かれており、これ以上に新たな税金を導入する必要はない」と言います。しかし、各国の環境税(炭素税)はスウェーデンが最高で約14400円、スイスが約10000円。フランス約5500円、デンマーク約3000円など欧州と比べて日本は税率が桁違いに低いのです。
そこで、現行の日本の炭素税(289円)で年税収約2400億円です。しかし、現行の揮発油税などから計算すると、炭素1トン当たり約4000円分になると言って経産省は反対しているのですが、仮に倍の8千円まで炭素税等を引き上げるとしたら、4000円は現行の289円の13.84倍になるので、それだけで、税収額が5兆5360億円となり、増加分は5兆2960億円の税収アップとなります。
ガソリンの揮発油税が1リットルで48.6円、地方揮発油税5.2円の合計で53.8円が約100円くらいになり、ガソリンの価格が200円くらいになる可能性があります。まあ、それだけでもEVの需要が爆発的に起こり、ガソリン自動車からEVへの変換が加速度的に進むでしょう。そのほか、石炭火力発電は終焉してしまうし、灯油ストーブも終わるでしょうが、日本中で再エネが爆発的に普及するでしょう。また、この5兆円の税収は若者の雇用対策などにも使えるのです。
エネルギー基本計画(案)に対する意見の募集について 詳しい説明は下のアドレスに
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620221018&Mode=0
「炭素税」本格導入を環境省検討、税率を段階的に引き上げへ
読売新聞2021/03/01
2050年の温室効果ガスの排出量実質ゼロ実現のため、環境省が排出量に応じて企業に税負担を課す「炭素税」を本格的に導入する方向で検討していることがわかった。激変緩和のため税率を段階的に引き上げ、税収は脱炭素政策に活用する。2日の中央環境審議会の小委員会で素案を示す。
国内では2012年から炭素税の一種として二酸化炭素(CO2)排出量に応じて原油やガスなどの化石燃料の輸入業者らに課税する地球温暖化対策税(温対税)を導入している。しかし、1トンあたり289円で、スウェーデンの約1万4400円、フランス約5500円、デンマーク約3000円など欧州と比べて税率が桁違いに低い。
環境省は、CO2削減に向けて産業構造を転換させるには、炭素税の本格的な導入が不可欠と判断。温対税の増税か、新たな炭素税を導入するか、どちらかの方式を想定する。
ただ、課税水準をいきなり欧州並みにすると、経済や社会への影響が大きい。このため当初は低く抑えつつ、段階的に引き上げる方針を明示することで、企業の計画的な脱炭素化への取り組みを促す。
経済界には国際競争力への影響などの懸念があるため、化石燃料を使わない技術への代替が難しい業界などは税の減免や還付措置を行う。税収は脱炭素政策に活用することで、企業の技術革新を後押しし、経済成長につなげることを狙う。
環境省は今後、中環審や経済産業省が別途行っている研究会の議論を踏まえ、具体的な制度を設計する。早ければ夏に財務省に税制改正を要望し、年末の政府・与党の税制調査会で本格導入の是非や税率、導入時期などが議論される可能性がある。
by nonukes
| 2021-09-09 00:01
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