2019年 07月 16日
原発裁判や国民の安全を求める「社会通念」が電力会社を追いつめる
私たちが原発運転差し止め裁判を続けることは意味がある?
小坂正則
原発を取り巻く環境がここ数年で大きく変化しているのではないかと私は感じています。というのも、2014年5月と翌15年4月に福井地裁で樋口英明裁判長が大飯原発と高浜原発の運転差し止め判決を出して、2016年3月には滋賀県の大津地裁の山本裁判長が高浜原発の運転差し止めの仮処分決定を出しました。そこで、日本で初めて動いている原発を止めるという画期的なことを裁判所が行ったのです。
2011年311以後、このような裁判所が原発の運転差し止め判決を次々に出すような動きに、多くの国民は「日本の裁判所の流れが変わったのではないか」と思ったことでしょう。しかし、その後、川内原発の仮処分では、次々にこれまでの流れに逆行するような「社会通念」という理由で運転差し止め裁判が負け続けるとい方向へと引き戻されて来ました。その後今日までその流れは変わらず続いています。
しかし、2011年から8年の間の「脱原発」を求める国民世論や「電気は普通の商品と同じで、誰でも自由に選ぶことができる」という「電力自由化」と、「再エネ電力が原発の発電コストよりも安い」という世界の経済状況など「原発を取り巻く環境」が大きな曲がり角に差しかかったことで、少しずつ変化が訪れてきているのではないかと、私には思えたのです。
規制庁が原発再稼働に厳しくなった
今年になって、原子力規制庁がいわゆる「テロ対策施設」とマスコミが言うところの「特重施設」の設置に関して、九電や関電が5年間の猶予期間を過ぎても完成できないので、再延長を求めたことに、規制庁は「再延長という甘えは許されない」として、来年3月17日を過ぎたら川内原発は止まる可能性を示唆したのです。そして、今年7月8日には「震源を特定しない地震動」の検討委員会で出た答申内容がこれまでの規制を大幅に引き上げる可能性のあるものかもしれないのです。詳しくは「原発の耐震対策が九電経営を直撃する」を読んでほしいのですが、要は原発の地震対策を「大幅に強化する」ことを規制庁が求める内容なのです。正式な答申はまだ出ていませんので、あくまでも「予定」なので、新聞各紙を読んでもよく分かりません。ですから、私は規制庁のHPから、委員会の動画を見たり、資料を読み解いて分かったのです。九電の玄海・川内原発の耐震設計基準である「基準地震動」は620ガルです。それでは甘すぎるのでもっと「耐震基準を強化しなさい」という内容なのです。どれだけの耐震強化を求めるのかは、これからシミュレーションをして出てくることでしょうが、この考えは、4月に出た「テロ対策施設」の件と「耐震強化」の答申は、もうほとんど「原発をやめなさい」という答申のようなものと私には思えるほどのハードルの高いもののような気がします。それに、この答申は「九州電力が対象になる」と新聞には書いていますが、よく考えたら、そんなこともないのです。つまり、「近くの活断層から「強振動予測」によって出た「基準地震動」と「震源を特定しない地震」から計算された「基準地震動」のどちらか大きい数値を、その原発の「基準地震動」として耐震設計しなさい」という「新規制基準」の規定なのですから、九電の原発の基準地震動が620ガルから800ガルなどに引き上げられたならば、伊方原発の現在の基準地震動は「震源を特定した活断層の地震」が650ガルですから、当然のこととして「震源を特定しない活断層」の数値の方が高くなるはずです。そうすると、「全国の原発の「基準地震動」の見直しが必要になるのではないか」と、私には思えるのです。最終的には専門家の読み解きがこれから行われることでしょう。その判断を待ちましょう。
日本の学者は御用学者ばかりではない
7月8日の「震源を特定しない…」委員会での模様は動画配信されていますが、地震の専門家である大学教授たちの発言などを見て感じたことですが、いわゆる御用学者が当局の出した内容を追認するような発言などではなく、「これでは甘すぎる」というような厳しい意見が飛び交っているのです。私はビックリしました。「専門委員会など、どうせ御用学者の集まりに決まっている」という偏見を捨てなければならないと思いました。まあ、この判断も短絡的に結論を出すのは危険ですから、今後も総合的な視点で規制庁や規制委員会の議論や方向をじっくり監視して行く必要があることでしょう。
世界中で競争力を失う原子力発電
今年1月23日に孫正義氏が設立した「自然エネルギー財団」が出した「競争力を失う原子力発電:世界各国で自然エネルギーが優位に」という報告書があります。これは「原発の全世界の発電電力量に占める比率は、ピーク時の17%から、2017年に過去最低の10%まで低下した」とあり、「全世界の発電電力量に占める原発の比率は、2017年時点で10%に対し、自然エネルギーは24%。さらに今後の予想では、2040年に原発が9%なのに対し、自然エネルギーは41%にまで上昇する」というものです。また、「米国の原子力発電の発電コストは、減価償却が終わった原子力発電の平均発電コストが3.4 セント/kWhで、陸上風力では2セント/kWh 前後で、太陽光発電も助成がある場合に 4 セント/kWh以下になり、中には約 2 セント/kWhの太陽光発電も出現している」というのです。ですから、シェールガス発電などと原子力の競争の激し米国では「2017年に全米61カ所の原子力発電所のうち、半数以上の34カ所が赤字の状態」なのだそうです。その他、中国や中東では太陽光発電の発電コストが2円や3円まで下がりつつあるのに対して、原発の発電コストは上がり続けているのです。この状況は日本でも変わりありません。規制庁による原子力発電への安全対策の規制強化で、原子力発電の発電コストは上がり続けているのです。
様々な要因で原発が少しずつ排除され続けている
以上のようなことから、「何が具体的に影響した」ということを証明することは難しいことです。しかし、原発の発電コストの上昇に比べて、再エネ電力、特に日本でも太陽光発電の発電コストが世界と比べたらまだまだ高いのですが、それでも少しずつ下がっています。また、日本の不十分な「電力自由化」でも、原子力発電に依存した電力会社に対して、再エネ電力や天然ガス発電を中心とした東京ガスや大阪ガスに地域の新電力会社の進出によって、既存の電力会社のシェアーを少しずつではありますが、奪っていることにより、地域独占だった既存の電力会社の独占力を奪っているのではないでしょうか。
そのようなことも規制庁の「専門家委員」のみなさの背中を押しているのかもしれません。また、昨年の新潟県選挙で再稼働反対派の米山県知事が辞職して、自民党の知事に代わりましたが柏崎刈羽原発の再稼働はまだまだできないのです。それは新潟の県民世論が柏崎刈羽原発の再稼働を許さないからでしょう。日本原電の東海第二原発も規制庁の運転許可が下りているにもかかわらず、再稼働の目処は立っていません。そのような国民世論の動向などが電力会社を包囲しているのです。ですから原発を動かしている電力会社は「底なし沼の脅威」に晒されているのです。
そのような「原発を取り巻く背景」を考えたら、私たちの「脱原発」を求める国民世論は決して裁判所を動かすことまでは現状ではできていませんが、それぞれの持ち場で諦めずにたたかうことで、経済的にも政治的にも世論の動きを作り出す1つの陣形として有効に作用しているのではないでしょうか。
伊方原発裁判へ新たに加わる54名の原告
今年7月18日の第13回伊方原発裁判の口頭弁論の前に、54名の新たな第4次原告が加わり、総勢568名で、今後の裁判を進めて行く予定です。2016年7月から大分地裁で「伊方原発をとめる大分裁判の会」は伊方原発の運転差し止め仮処分を申し立てました。その後、9月には本訴訟を提訴しました。しかし、この間の裁判所の判断は決して住民側に有利な判決は出ていません。多くの方は「やはり裁判で原発を止めるのは無理なのではないか」と考えているかもしれません。確かに昨年9月28日に大分地裁での仮処分では負けましたし、今年7月10日には玄海原発運転差し止め仮処分の福岡高裁で行われた控訴審でも負けました。この間各地で住民側の敗訴が続いています。ですが、世論喚起と裁判所がこれまで原発を動かすことを容認してきたことの責任を追及するという意味でも、何らかの役には立っていると考えられます。ですから、今後も決して諦めることなく、私たちにできることを小さなことであっても続けて行くことにより、やがて「全ての原発をとめる」という大事業も達成できるのではないでしょうか。「新電力への乗り換え」も「脱原発を実現する」ための大きな力となり得ます。みなさんもぜひ新電力へ乗り替えましょう。
by nonukes
| 2019-07-16 12:14
| 原発再稼働は許さない
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