2019年 05月 31日
水素は化石燃料の代替エネルギーとなり得るのか
小坂正則
トヨタ・ホンダの燃料電池自動車開発の行方
トヨタがミライという燃料電池自動車を一般に発売したのが2018年10月です。それまでは政府など公的機関へ試験的にレンタルされていたようです。販売価格もゼロを1つ取ったような価格で、メーカー希望小売価格は消費税込で723万6,000円(2018年10月の一部改良以降は727万4,880円)だそうです。そこまで値下げできる技術力や努力は大いに買います。私はトヨタをディするために、この記事を書いているわけではありません。日本を代表するトヨタには頑張って、日本の産業界を牽引してほしいし、雇用の受け皿として世界一を確保し続けることを願っているのですが、失敗は失敗として総括し、方向転換を進めてもらいたいと思うのです。
実際にはどれだけの燃料電池自動車は公道を走っているのでしょうか。「2017年末時点でのFCEVの保有状況は全国で乗用車1807台、バス5台、トラック1台の計1813台。その大半が行政、法人で、個人ユーザーはごく少数と見られる」と2018年03月28日 のハーフポストの「燃料電池車はEVに『もう勝ち目がない』は本当か」という記事の中にでていました。それから2年が経ちますので、その倍くらいは走っているかもしれませんが、まだまだ普及し始めたという数ではありません。
燃料電池自動車の欠点として上げられることに、水素ガススタンドが大都市に限られているという点です。「2022年までの4年間で水素ステーションの数を80ヵ所増やして全国160ヵ所とすることであるという。また現状では水素ステーションが都市圏に偏在しているのも課題。」と言います。九州では福岡県と熊本県に大分市くらいしか水素スタンドはないようで、大分県以南にはありません。鹿児島県は今年設置が決まったそうです。それでは長距離ドライブは無理です。それに最も大きな問題は燃費の問題です。メーカーは「トヨタが世界に先駆けて発売した量産FCEV『MIRAI(ミライ)』は、水素1kgあたり100km程度走る。ステーションにおける水素の実売価格は1088円から1500円だが、同じトヨタの『カムリハイブリッド』なら半分程度の燃料代で済む。FCEVが好きだという人以外、買うメリットがそもそもないのである」と、同紙にはあります。
つまり、燃料電池自動車は燃料代が安くはないのです。しかも今は石油精製の副産物として水素が生産されていますが、需要が増えると生産が追いつかずに価格が上がる可能性があるので、結局は化石燃料の副産物としてしかならないようなのです。ですから、「水素社会がやって来る」というのは誇大広告ではないかと疑ってしまうのです。
トヨタが読み誤った電気自動車社会の到来
トヨタやホンダが燃料電池自動車開発に力を入れてきた背景には、地球温暖化対策と石油枯渇の可能性などで、21世紀は省エネ車の時代だと考えて、プリウスのハイブリッド車が当たって、今日では爆発的に売れています。そして、これから10年はハイブリッドの人気は続き、その次は燃料電池自動車だと考えていたようなのです。電気自動車が主流になるのはまだ10年以上先だと考えていたのです。だからハイブリッド車の人気はまだ5年や10年は続くと読んでいたようなのです。しかし、2017年のパリ協定で地球温暖化対策が待ったなしという危機感から、現在、カリフォルニア州内で一定数以上の台数を販売する自動車メーカーは、一定割合(2017年は14%)の「ゼロ・エミッション・ヴィークル/Zero Emission Vehicle」、つまり排出ガスを一切出さないで走行できる自動車の販売を義務づける制度の中で、これまでハイブリッド車はゼロエミッション車と認められていたのが、2018年から対象から外されたのです。排ガスを出さない車として認められた車種はプラグインハイブリッドと電気自動車と燃料電池自動車だけになったのです。
しかも、この規制に追随したのが中国政府です。中国の北京など大都市の大気汚染が深刻なこともありますが、もう1つ中国が電気自動車を進める理由があります。ハイブリッド車などはトヨタの独壇場で、ガソリン車は3万点という部品の「合わせ技術」と言って、それぞれの部品の相性がよくできていなければ性能を発揮できないという技があるのです。しかし、電気自動車はパソコンや液晶テレビを組み立てたりするように、ガソリン車に比べて十分の一の部品を買ってきて組み立てるだけで完成するので、ガソリン車を作るよりも遙かに簡単なのです。ですから、「中国の新興自動車企業がトヨタを抜くには電気自動車しかない」ということから、電気自動車へ一気に舵を切ったのでしょう。
しかも中国で販売する電気自動車は日本のJIS規格のような中国規格を通らなければ販売できないそうで、電気自動車の心臓部であるバッテリーのブラックボックスを日本企業などに開示させて、合弁企業にコピー製品を作らせようとしているのでしょう。トランプ大統領が知的財産の侵害であると怒るのも頷けます。
そこで、話はトヨタに戻しますが、トヨタは大慌てで電気自動車の生産へと舵を切ったそうです。ですから、2018年から世界中で進んだ電気自動車化は加速することはあっても下火になることはないでしょう。
電気自動車は太陽光発電を普及拡大させる
電気自動車の価格の3分の2はバッテリーの価格だと言われるほど、バッテリーの善し悪しが電気自動車の決め手です。走行距離と価格低下はバッテリーの性能にかかっているのです。バッテリーの軽量化と電力の蓄える量の技術競争です。その2つが進めば価格が下がって、電気自動車の販売価格が下がるのです。それともう1つ電気自動車と相性がいいのが太陽光発電です。再エネの中でも太陽光発電は昼間発電しますが、夜は全く発電しません。ですから、太陽光発電が増えればその電気を蓄えるバッテリーが必要になるのです。そのバッテリーが電気自動車の技術競争でコストと性能向上がダブルで進んでいるのです。それに太陽光発電の生産コストが留まることを知らないほど急速に下がっています。中東では発電単価で太陽光発電が1kwあたり2円ということです。それならバッテリーに蓄えて夜でも送電線に流せば太陽光発電で電力を完全に賄える時代がくるかもしれないのです。ですから、世界中で起きている電気自動車への方向転換は、それが太陽光発電などの再エネの普及にも大きな影響を与えて、太陽光発電と電気自動車は互いに相乗効果で普及拡大することでしょう。
水素エネルギー社会は来るのか
肝心な水素の話がやっと出てきました。水素はエネルギーではなく、エネルギーを蓄える技術でしかありません。水は水素と酸素でできていますが、水をそのまま燃料には使えません。太陽光発電などで余った電力をバッテリーの代わりに、水を電気分解して、その水素を必要なときに燃料電池で発電して電気と熱を利用するということが可能なのですが、水素を圧縮して持ち運んで車を動かすということはどう考えても電気自動車に比べたら競争にはならないでしょう。だって、自動運転の車には運転手は乗っていません。自動運転タクシーがお客を送って帰って来て燃料を注入するのに、わざわざ水素ステーションに行って、ノズルで水素を補給しますか。誰が考えてもバッテリーなら、お掃除ロボットのように車庫に入ったら非接触型の充電器で充電して、また次のお客を迎えに行くでしょう。また、水素がエネルギーの主体になることもあり得ないでしょう。水素は圧縮して運ばなくてはなりませんが、電気なら送電線で送ることができます。輸送コストが送電線に比べて高すぎます。あくまでも水素は補助的なエネルギーの保存や交換手段でしかないでしょう。近未来に燃料電池自動車ばかりが走っているということは想像できません。残念ながら政府が言うような「水素社会」が来る可能性はほとんどないでしょう。
by nonukes
| 2019-05-31 15:16
| 小坂農園 薪ストーブ物語
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