2019年 05月 25日
仮に東海第二が20年動いても廃炉費用も捻出できない虚構会社
小坂正則
電気を1ワットも発電しない原発専門会社が黒字?
日本原電という、実に奇妙な原発だけの発電専門の会社があります。この会社は2011年3月11日の東日本大震災で、自社所有の東海第二原発はかろうじて福島第一原発のような大事故は免れました。そしてもう1つの敦賀原発2号機は、その年の5月7日に放射能漏れ事故で止まり、2つの原発は今日まで電気は1ワットも発電していない発電会社なのですが、8年間もの間ほとんど黒字を出して、約千人の社員には高額の給与とボーナスも出しているという世にも不思議な会社なのです。
その原資は東電や関電などによる電力供給契約の「基本料金」という名目で1千億円から1500億円のお金がつぎ込まれているのです。5月24日の朝日新聞によると「2011年以降総額9,885億円になった」という記事がありました。
こんな債務超過の会社を国の税金で支えられている国営企業の東電が毎年数百億円もの「基本料金」という名の捨て金と、東海第二原発の再稼働への対策費用3千億円の債務保証まで行うことは東電株主への背任行為になるのではないかと疑われるのです。以下その理由を説明します。
日本原電とはどんな会社か
日本原子力発電(株)略称:原電とは東電、関電などの電力会社などが出資して作った原発専門の発電会社です。東海第一原発は1998年に運転停止して廃炉作業中です。残る東海第二原発110万kwは2011年3月11日の東日本大震災で被災したまま、今日まで止まったままです。福井県敦賀市にある敦賀第一原発(35.7万kw)は2015年に廃炉が決まり、敦賀原発2号機(116万kw)は2011年5月に放射能漏れ事故で止まって以来今日まで止まったまま。ところが敦賀原発2号機建屋の真下に活断層があることが判明したため、この原発は廃炉の可能性が大なのです。また、敦賀3、4号機は更地などの作業が進んだまま止まっています。ところが、その建設費用1400億円は敦賀1号機を含む4機の原発の廃炉積立金を取り崩して使っていたことが判明しています。つまりこの会社は東海第一原発や敦賀1号機の廃炉費用も使い果たして3、4号機の建設資金に流用したのです。しかし、現在3、4号機が建設される可能性はゼロです。建設費が高騰していることと、新規原発建設ができる世論ではありません。しかも、もし建設して運転開始したとしても発電単価が跳ね上がって、電力自由化や再エネ電力の価格低下の中で競争に勝てる可能性が全くないのです。
東海第二原発の再稼働はほとんど不可能
ところで、日本原電に取っては東海第二原発が唯一残された「動く可能性のある原発」なのですが、それも非常に困難なのです。というのもこの原発周辺30キロ圏内には約100万人の住民が住んでいて、周辺8市町村との間には「安全協定」が結ばれていています。その内、東海村や水戸市など6市村との間には自治体が運転を認めなければ動かすことはできない再稼働の「事前了解」協定が結ばれているのです。しかも東海第二原発は2023年1月までに再稼働ができなければ運転開始後40年が過ぎてしまい廃炉となる運命なのです。
しかもテロ対策施設と言われてる「特定重大事故等対処施設」の建設費およそ3千億円は計画も準備も全く進んでいなくて、資金調達の目処も立っていないのです。建設費の3千億円は東電などの債務保証で銀行から借り入れる計画ですが、この会社は実質的に債務超過なのに追加融資の3千億円を貸す銀行があるのでしょうか。また銀行から借ることができたとしても返すことは不可能でしょう。
また、昨年11月7日に再稼働の許可が下りたのですが、すると残り4年と少しの間で、いわゆる「テロ対策施設」は完成させなければならないのです。九電が「5年間の猶予では完成できない」と言われる施設を、日本原電は4年間で完成できるわけはありません。まだ設計図もできていないし、テロ対策施設の設計許可も規制庁からは下りていません。仮に2023年に再稼働したとしても、また、すぐ止まってしまうのです。
「基本料金」は発電できて初めて発生するもの
そんな債務超過で再稼働の可能性もほとんどないようや原発専門の発電会社へ湯水のようにお金を垂れ流す東電や関電は、ではなぜこの会社をかばい続けるのでしょうか。
それはこの会社を作った経過にその理由があります。1957年に政府主導で「電源開発」という国策企業を政府は立ち上げたのですが、当時の原子力委員会の正力松太郎委員長は原子力発電はこれからの有望事業の可能性が大きいので民間主体で行いたいとして、政府と利権争いの結果電事連主体で立ち上げた電事連主体の民間企業なのです。
ですから持ち株比率も東電、関電と続き本土の9電力会社に電源開発も含まれています。ですから、東電にとって、日本原電を潰せば、そのツケは自分たちに降りかかって来るので、何とか電気料金で支えて、最後には政府に頼りたいという甘えがあるのでしょう。
しかし、よく考えてみてください。この日本原電がガス会社と仮定します。そのガス会社は私の家にも供給していたとします。その会社から次のような請求書が来たら皆さんどうします。「当社のガス発生装置が故障して等分の間ガスを供給出来ませんので、皆さんからは基本料金だけ頂きますのでご了承願います」という通知がきたようなものです。
すると、東電さんや関電さんは「いいですよ。それでは基本料金だけはお支払いします」と言って、毎年1千億円以上の基本料金を8年間支払い続けて、その総額が1兆円になろうとしているのです。そんなバカな話があるでしょうか。これがトヨタや日産が自分の子会社が赤字が続いていても、資金提供して支えることはあり得ます。でも、それが株主の利益にならないことであれば、株主代表訴訟を起こされて、経営責任が問われることでしょう。東電や関電の株主の皆さん、ぜひこの件について株主代表訴訟を起こしてください。
ちなみに各電力会社の持ち株比率は東電が28%。関電が18.5%中部が15%で、九電は1.5%です。九電は日本原電から電力供給は受けていないため、基本料金は支払っていません。
東電は債務超過の原電の精算を
東電・関電が債務保証をやめれば、その日に倒産する日本原電を電力会社が、このまま支え続けることは、問題の先送りでしかなく、先送りするごとに負債額は天文学的に増えるばかりです。現在日本原電を精算した場合、残る債務は数千億円あるでしょうが、問題はは4原発の廃炉費用です。仮に日本原電が計画している東海第二原発を20年延長できたとしても、20年後には廃炉になるのですから、110万キロワット以外には発電しないのですから、20年間で4機の廃炉費用を捻出することなど不可能です。電力会社は1機の廃炉費用を500億円から800億円と見積もっていますが、実際には少なく見積もっても1千億円から2千億円と言われているのです。それにかかる費用は5千億円から1兆円に近い廃炉費用が必要になるのです。20年でそこまで稼げるのでしょうか。
発電した時と同額以上の基本料金を払っている
東海第二原発は動く可能性は極端に少ないのですが、それでも動いたと仮定しましょう。すると、この原発は1時間に110万kwhの発電を行います。その電気を東電などにキロワット当たり12円で販売したとします。すると1時間に1320万円の売り上げです。24時間で3億1680万円です。1年間で定期検査に1ヵ月使うとして年間330日稼働するとします(実際には13ヵ月で2ヵ月の定期検査ですが年間で1ヵ月とは随分甘く算出しました)
1年間では1045億円の売り上げです。何と1ワットも発電していない現在と同じ売り上げないのです。それでは電力会社が利益抜きの15円で買い取ってくれたとします。こんな破格の買い取りなどあり得ませんが。すると年間売り上げが1307億円です。社員の賃金が年間1人1千万円としたら116億円が消えてしまいますし、その他の経費を差し引いたら、これまでとほとんど変わらない収支にしかならないのです。それではいくらで買ってもらえば企業として採算ベースに乗るのでしょうか。1キロワット当たり20円で買い取ってもらうと、年間1742億円になり、年間400億円くらいの収益が見込めるでしょう。しかし、それでも4機の廃炉費用は積み立てられないでしょうし、そんな破格の値段で買い取ると、今度は電力自由化の中で激しい競争を強いられている東電や関電の経営に重く負担がのし掛かるし、その分を賄うために電気料金を値上げすれば、東京ガスや大阪ガスに顧客を奪われてしまう可能性が大きくなるのです。
つまり東電や関電などは日本原電へ原発が発電した場合と同額か、それ以上の金額を基本料金という名目で日本原電へ支払っているのです。東電などが支払っている1千億円以上の「基本料金」という名の「原電支援金」は東電への税金と消費者が支払う電気料金に含まれた不当なお金の横流しなのです。
しかし、日本原電は東電や関電に取っては金食い虫の重荷でしかなく、どう転んでも遅かれ早かれ消えて行く運命のお荷物会社でしかないのです。ですから一日でも早く会社を精算することが唯一無二の選択なのです。ではなぜ、東電などの電力会社は不当な無駄金を支払い続けるのでしょうか?それは「原子力ムラ」連中のなれ合いで、「最後は政府が何とかしてくれる」と期待しているからでしょう。今回、私が計算した「売電価格を上回る基本料金」の異常さを、これからもマスコミ各社には追求してもらいたいものです。
どうか東電・関電の株主の皆さん株主代表訴訟を起こしてください。
発電ほぼゼロで収入1兆円
日本原電8年間分、本紙集計
2019年5月24日朝日新聞
原発専業会社の日本原子力発電が、2011年度からの8年間で発電がほぼゼロだったにもかかわらず、大手電力5社から受け取った電気料金が計1兆円近くになった。「基本料金」を支払う仕組みがあるためだ。23日に発表された18年度の決算資料などから朝日新聞が集計した。一方、原電がめざす東海第二原発(茨城県)の再稼働は、テロ対策施設の建設問題で不透明感が増している。
原電は原発を4基保有していたが、2基は廃炉作業中だ。残る2基のうち、東海第二は11年3月の東日本大震災で運転停止に。敦賀原発2号機(福井県)は同年5月上旬に止まり、それ以降の発電量はゼロだ。
発電をしていない原電に電気料金を支払っているのは、東京電力ホールディングス(HD)、関西電力、中部電力、北陸電力、東北電力の5社。18年度の決算資料によると、原電は原発の維持、管理費などの「基本料金」として5社から計1091億円の電力料収入を得た。震災後の11年度から年1千億~1500億円ほどで推移し、総額は9885億円になった。
ただ、16年の電力小売りの全面自由化で大手各社も経営環境が厳しく、値下げを求められている。原電の村松衛社長は「原発が長期停止し厳しい。(各社から)効率化を強く要請されており、19年度(の電力料収入)は1千億円を切る」と述べた。
原電にとって経営再建の「命綱」が、運転開始から40年たち、昨年11月に20年間の運転延長が認められた東海第二の再稼働だ。敦賀2号機は原子炉建屋直下に活断層の存在が指摘され再稼働は難しい。東海第二が再稼働できなければ、経営破綻(はたん)が現実味を帯びる。
原電の資金繰りが苦しいため、東電HDなど5社が検討中の約3千億円を資金支援する計画では、東海第二の再稼働時期を「23年1月」と想定する。しかし、地元了解をめぐって地元自治体と対立し、再稼働に必要な同意の見通しは立たない。原発の30キロ圏内に住む100万人近くの避難計画策定も進んでいない。
さらに、原子力規制委員会が4月、テロ対策施設の設置期限の延長を認めないことを決めた。東海第二は23年10月が期限だ。これ以降は施設が完成しなければ、原発を動かせない。
村松社長は「設備の仕様を検討している段階で、工期まで検討には至っていない」とする。だが、すでに再稼働した原発では工事期間を5・5~7・5年としており、未着工の東海第二でも長期化する見込みだ。仮に再稼働できても、運転できる期間が短くなる可能性が高い。
福島第一原発事故後に実質国有化された東電HDは資金支援の理由に「経済性」を掲げるが、運転期間が短くなれば発電コストが上昇し、巨額支援の「大義名分」が薄れる。
by nonukes
| 2019-05-25 13:54
| 原発再稼働は許さない
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