2019年 04月 10日
再エネは太陽光発電だけではありません。木質バイオマスの熱利用も立派な再エネ
小坂正則
百姓と薪屋には決まった休みはありません。休みは雨の日だけです。そんな雨が昨夜から降って来て、今日は束の間の一休みです。当方のNPOの薪屋の薪作りもいよいよ終盤です。今年の秋から冬の薪は昨年10月頃から今年3月頃までには割って、乾燥棚に積み上げています。今作っている薪は来年の1月から3月にかけてのお客様用と石焼きピザやさんなどの通年用とカシ・クヌギの2年乾燥の薪などを作っているのです。薪屋の需要はおおむね秋から春までの半年ですが、薪作りは10月頃から5月中までです。なぜ6月から9月に薪作りをしないかというと、理由は簡単で「蒸し暑くて仕事をしたくない」からなのです。
ですから、私は薪作りに関しては8ヵ月働いて4ヵ月休みなのです。もちろん雨の日は休みですが。薪を作るにはチェンソーと薪割り機を使います。まあ、薪割り機はそんなに事故を起こすことはないでしょうが、チェンソーは一歩間違えば大事故になる可能性があるため、細心の注意が必要なのです。蒸し暑くて注意が散漫になる可能性のある夏の季節は、できる限りチェンソーを扱わないようにしているのです。
庭木屋とゴミ処理場と薪屋は「三方両得」
実は、私が薪屋を始めた11年前から、薪の原料の大半は植木屋さんや土木工事業者が伐採した立木を私の事務所の作業場まで持って来てくれるので、「薪屋は儲かりそうだ」と思ったことが、薪屋を始めたきっかけでした。なぜ立木をわざわざ私のところまでタダで持って来てくれるかというと、立木は一般廃棄物なので、事業者は野焼きで燃やしたりどこにでも捨てることはできないのです。ですから、法律で産廃業者に引き取ってもらうか、ゴミ焼却場に持って行って処分してもらわなければならないのです。当然産廃業者に引き取ってもらうには処分費がかかりますし、公設のゴミ焼却場に持ち込みには、お金も取られるし、「木の長さを60センチ以内に細かく切って持ち込むように」ということも言われていたそうです。別府のゴミ焼却場の場合ですが、現在は分かりません。そこで、10年くらい前にゴミ焼却場の所長さんから、私に相談がありました。「うちに持ち込む業者に小坂さんとこに持って行くように指導してもいいかね」と。私は「こちらこそお願いします。大助かりです」と。所長さんは「うちに持ち込まれても裁断機の刃を傷めて交換するのに金がかかるし、生木は助燃剤にもならないから、生木はほしくないんだ」という話でした。立木を切る業者は処分費が必要なくて、儲かり、ゴミ焼却場ではゴミが減って儲かり、私は寝て待っていれば薪の材料が手に入って儲かるという、つまりこれこそ「三方両得」という話だったのです。
薪屋に起きたちょっとした異変
ところがこの「三方両得」が壊れかかっているのです。
皆さんもご存じかと思いますし、想像してもらえば分かると思うのですが、日本の林業は衰退の一途でした。杉を代表とした針葉樹の林業は、人件費がかかる割に材木価格が低迷していて割に合わなかったのです。その現象は広葉樹でも言えることで、広葉樹の材木は主に紙の原料チップとなっていたようです。産廃業者はお金をもらって材木を集めて、それをチップに砕いて製紙会社へ販売していたのです。ところが、この事業スキームに異変が起きたようです。私もそんな「濡れ手に粟のような商売は長くは続きませんよ」と産廃業者に話していました。その理由は2つあります。1つは林業労働者は減る一方で針葉樹の建築材の需要はこれから増えます。なぜなら中国の経済発展が需要を喚起させるからです。それにもう1つがバイオマス発電などのエネルギー需要が増えるからです。
ですから、ここに来て針葉樹も広葉樹も需要がどんどん増えているのです。
それは2012年から始まったFIT(再エネ電力固定価格買取制度)によって、バイオマス発電所が増えて、バイオマス原料(杉などに針葉樹や広葉樹材)の奪い合いが始まり、価格が高騰しているのです。材木の端材の値段だけではありません。建築材の材木価格も中国の需要高騰で値段が上がっています。まあ、上がったといってもこれまでが安すぎたのですがね。材木の値段が上がれば、林業労働者の賃金も少しは上がるかもしれませんね。つまり、私が「楽して儲かる」事業スキーム自体が異常な現象だったのです。「木質バイオマスの価値を市場が正当に評価しつつある」というのが現在の林業を取り巻く情況の明るい兆しかもしれません。ただ、日本の林業を世界水準で利益を出して、再生可能な産業に育てるためにはまだまだ課題山積みですけどね。
日本の山の複雑な地権者の数と、そもそも私の年代の山主の大半が境界線を知らないという現状があります。このままでは日本中の過疎地が崩壊するのと連動して、業者は木を切りたくても地権者が誰だか分からないという深刻な問題がもちあがっているのです。(この問題へ別に書きます)
ですから、これまで私のとこまで運んできてくれていた業者の方が「小坂のところにタダで持って行くよりも材木仲買御者へ売った方が金になる」ようになったからなのでしょう。
それは仕方ないのではなく、適正な需要と供給のバランスが成り立つようになった、いわば林業という産業が正常な状態になりつつある証拠なのです。
ただ、私としては寝て待っていればよかった原料が手に入らなくなったのですから、それへの対応は深刻な問題です。今は近くの雑木林のオーナーさんに立木を分けてもらい、私はアルバイトの男性と2人で切り出していますので、薪製作コストが跳ね上がっています。そろそろ値上げを検討せざるを得ない状態になって来ました。でも、いままで低価格で販売していた「二酸化炭素ゼロ」の環境に優しい薪ストーブの燃料の薪の値段が少し上がったとしても、環境に優しい薪ストーブの暖かさの価値をご存じの優しい薪ストーブオーナーの皆さんは理解してくれることを願っています。そこでこの冬から少しだけ値上げをしようかと考えている今日この頃です。
このチラシは昨年度までの価格表です。今年は少し値上げの予定です
by nonukes
| 2019-04-10 09:50
| 林業再生
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