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小坂正則の個人ブログ

平田オリザ氏の甲状腺ガンに対する考えこそ原理主義者の一方的な患者切り捨てではないか?

平田オリザ氏著書「下り坂をそろそろと下りる」感想文
小坂正則


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ふるさと再生の原点はワクワクするような文化と多様性

平田オリザ氏(脚本家・劇作家で大学教授)の著書「下り坂をそろそろ下りる:あたらしいこの国のかたち」(講談社現代新書:760円)を読みました。平田オリザ氏は脱原発を自認しています。そして地域活性化などで大変ユニークな発想で話題を呼んでいるそうです。実際にこの本を読んでみても大変興味あるものでした。氏は様々な街興しの委員や提言を行っているのです。この著書は、全体として「どうやって地方の再生を行うべきか」というテーマで貫かれています。氏は地方が過疎化する理由は、「働く場がないからではない」と言います。「地方がつまらないから若者は東京から地方に帰っていかないのだ」と言うのです。「地方がつまらない」というのは「地方に魅力がないからだ」と。私もこの意見に大賛成です。多くの県庁所在地の地方都市は駅を降りたら駅前の商店街がどこも小さな新宿や渋谷のコピーばかりです。日本の地方都市はどこも個性がありません。それは観光開発にも言えます。特に地方の町村長は観光開発と言えば、ブランコや滑り台がある小さな公園を作ることが都会に人間も喜ぶと思っているようです。田舎に行くと、人は誰もいないのに公園だけは都会の公園のような遊具があって、誰も遊んでいない光景を目にすることがあります。都会の人間は、そんなありきたりのもので遊びたいのではありません。「なにもない」ことがむしろ強みであって、田舎の最大の観光資源なのです。そして、そこに都会に負けないほど洒落たカフェやケーキ屋があったりして、若者が癒される場所こそがほしいのです。平田オリザ氏も「洒落たカフェ」がないことが都会から田舎に帰りたくない大きな理由だというのです。「『ふるさと再生』は経済的な雇用の場よりも若者がワクワクするような『文化』こそ必要なのだ」と言うのです。

私たちはオロオロと低線量放射線の時代を生き抜いていかなければならない

私は脱原発だと自称する平田オリザ氏を大切な文化人として尊敬もしていますし、彼が双葉郡広野町に建設された「ふたば未来学園」の講師として名を連ねていることに対しても多様な考えがあることに批判する気はありません。でも、中には平田氏を批判する方々もいるのでしょう。彼はそんな方々に対して141ページで「私はもちろん原発再稼働には絶対反対であるし、国内の全ての原発は即刻廃炉作業に入るべきだと思っている。しかし一方で『反原発原理主義』のような方々に対して強い違和感を覚える」と言います。
144ページで「原発でこれだけの事故が起こってしまった以上、そしていまも、放射線が少量であっても出続けている以上、私たちは、絶対の安心を得ることはもはやできない。しかし、私たちは、『安心したい』のだ。『いくら何でもそんなひどいことにはなりませんよ』と誰かに言ってもらいたいのだ。『安心したい』という言葉は、いまも私たちが『安全神話』から抜け出しきれていない証左だろう。だが、安心はない。原発に絶対の安全がなかったのと同じように、もはや絶対の安心もない。私たちは、この『安心はない』というところから、オロオロと低線量放射線の時代を生き抜いていかなければならない。」 というのです。

そんな氏がなぜ甲状腺ガンの子どもたちを切り捨てるのか?

私もこのオリザ氏の意見に賛成です。すでに日本の大半が福島原発事故で放射能に汚染されています。もっと言えば地球上至る所が放射線に多かれ少なかれ汚染されているのです。ですから、私たちは放射線による被爆を程度の差こそあれ受け入れて、そんな中で生きていくしかないのです。東京など関東からから大分に避難して来たの方の中には東京に帰っていった方もいれば、旦那から「お前は気が狂っている」と言われながら逃げてきた方で、大分に留まり続けている方もいます。そんな方が今さら東京に帰りたくない気持も尊重してやるべきだとは思いませか。それこそ多様性の尊重であり、生き方の違いではありませんか。それが氏の言う「オロオロしながら生きる」ことではないでしょうか。
そんな多様性を認める氏が次のようなことを言うのです。149ページでこう言います。
「念のために書いておくが、私は、福島県において甲状腺ガンが多発発見されている点について、基本的に原発事故との関係はきわめて薄いと考えている。異見があることも承知しているが、『この結果は広く甲状腺検査を行ったために起こった現象であり、原発事故とはほぼ無関係だろう』というのが大半の科学者、医療従事者の意見だと認識してる。しかしそうであっても、ここに記したように、甲状腺ガンが『発見』され、そしてその治療を希望する者は、国家と東電の責任において全額無償で対応すべきだとも考える。…」
とあるのです。私はこの発言に大変違和感を感じました。まず、「大半の科学者や医療関係者が原発事故との因果関係がない」と言うのは、福島県医師会であり、政府の役人や御用学者など利害関係者の発言です。良心的な医師たちは少数意見ながら積極的に「原発事故との因果関係」を指摘していますし、政府や福島県医師会は18歳未満子どもたちの全員検査すら中止しようという動きがあることをあなたは何も批判もせずに、「私は第三者としてこれからの政府は検査を続けるべきだ」と人ごとのように言うだけです。それなら、「原発は低廉で安全」といまでも大半の御用学者や政府の官僚言ってますので、あなたはなぜその意見従わないのでしょうか。まず、あなたのこの発言が200名にも及ぶ甲状腺ガン患者や家族に対して傷口に塩を塗るような非情な発言とは感じませんか。
甲状腺ガン患者とその家族の手記を読んだことがありますか。患者の若者は何度自殺をしようと思ったことかと涙ながらに訴えています。そして夢や希望もなくして、家族も同じように悲しんでいるのです。そんな家族が200家族以上もいるのですよ。それだけではありません。福島以外にも群馬でも茨城でも千葉でも甲状腺ガン患者は出ています。彼らには何の罪もありません。それにあなたは「スクリーニング効果」と言いますが、その根拠は何も示していません。私の住む大分県の小児甲状腺ガン患者が果たして何人いるでしょうか。いたとしても数人でしょう。その100倍も200倍も福島県内にいることの不自然さを感じませんか。それに福島県医師会が「原発事故のせいではない」という根拠はご存じですか。「チェルノブイリ原発事故では4年後から大量に小児甲状腺ガンが出たので、日本は1年目や2年目から出ているので発生状況が異なる」という理由だけが唯一の根拠なのです。
それは「原発事故の放射能のせいではない」根拠としては不十分です。もし、正確に言うなら「福島原発事故のせいという因果関係は立証されていない」と言うべきです。「福島原発事故のせいではない」という根拠などどこにもないのですから。
ついでに言うと、チェルノブイリ原発事故で甲状腺ガンが原発事故の4年後から多発したのは「事故後4年経ってから世界中の医師がベラルーシやウクライナに入って調査をしたから4年後から患者数が多発した」というのが世界中の多くの医師や科学者の論拠です。私はあなたの考えも否定はしませんが、せっかくなら、あなたが多様性を認める脱原発文化人として、もう少し甲状腺ガン患者や家族の窮状や悲しみを想像力を働かせて思い描いてほしいと思います。でも、それ以外ではあなたの著書をワクワクしながら読ませていただきました。これからも頑張っていい作品をどんどん作ってください。

ちなみに2018年7月9日現在、福島県内の小児甲状腺ガン患者は209名だそうです。
詳しくは http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2275

by nonukes | 2018-09-10 15:15 | 福島原発事故 | Comments(0)