人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

小坂正則の個人ブログ

伊方原発運転差し止め訴訟 大分地裁第9回口頭弁論 原告意見陳述書(第2案)

意見陳述推敲原稿第2案
小坂正則

伊方原発運転差し止め訴訟 大分地裁第9回口頭弁論 原告意見陳述書(第2案)_d0174710_18520746.jpg


 私には尊敬する中津の作家、松下竜一センセがいました。松下センセは反原発運動の同志でもありました。2004年に亡くなりましたが、もしセンセが生きていれば、ここで意見陳述をしていたことでしょう。松下センセは1974年に「暗闇の思想を」という本を出しました。その本の中で「冗談でなくいいたいのだが、「停電の日」をもうけていい。月に一夜でもテレビを離れ「暗闇の思想」に沈みこみ、今の明るさの文化が虚妄ではないかどうか、冷えびえとするまで思惟してみようではないか」と書いています。ですから、私は、電気にしかできない照明やモーターなど以外の湯沸かしや暖房は電気は使いません。だから我が家の冬は薪ストーブです。

使い捨てから循環型社会へ

 私は1985年9月まで川崎の郵便局で働いていました。
 当時の川崎市は日本一の住民サービスを掲げて、家庭ゴミの可燃ゴミも不燃ゴミも何でも分別なしで毎日収集が市の看板政策でした。当時、安心安全な食べ物や暮らしを求めて、生協組合員に入った私たち夫婦はゴミを少しでも減らそうと、生協のトラックを、私が運転して廃食油を回収し、石けんを作る活動をしたり、妻が無認可保育所で働いていたので、保育所の資金稼ぎのために古紙回収をしたり、住民から不要品を集めたリサイクルバザーなどもやりました。1984年そんな時「乾電池などに含まれる水銀がゴミ焼却場から放出されている」という問題がテレビや新聞で話題になりました。私の働いていた郵便局と保育所のすぐ近くにゴミ焼却場があったから人ごとではありませんでした。
 そこで私たちは、ゴミ焼却場周辺の住民にアンケートを取ったりして住民を巻き込んで、清掃局長と団体交渉を行った結果、翌年から分別収集が実施されるようになったのです。 住民が立ち上がれば政治は変えられるということを私は実感しました。私はゴミ収集問題などに関わる中で、「使い捨て」から「循環型」へ私たちの社会は作り変えなければならないと強く思うようになったのです。
 人間以外の生物もウンコは出しますが、処理できないゴミは出しません。糞や死体は、それを餌とする微生物などが食べて生命を循環させます。なぜ人間だけがプラスチックや、ビニールなど腐敗しないゴミを大量に使い捨てるのでしょうか。ゴミの中でも一番やっかいなゴミが使用済み核燃料から出る放射性廃棄物です。これは科学の力ではどうにも処理できません。
 
再エネNPOを作るまで

 私が1985年に大分に帰ってきた翌年の4月26日に、ソ連のチェルノブイリ原発事故が起こりました。8千キロ離れた日本まで放射能が降ってきたのです。そこで、その年の夏に大分のトキハ前で「8月30日の伊方原発見学ツアー参加者募集」というビラを一人で撒きました。そのツアーに参加した12名の仲間と大分の反原発運動が始まりました。
 あるとき街頭で「原発はいらない」というビラを撒いていたら「お前は原発がそんなにいやなら九電の電気は使うな」と言う人がいました。その時考えたのです。「自分たちで電気を作って、私は原発の電気は使っていません」と言うのが一番分かりやすいと。それに「何かを作る活動は主体的で参加者も楽しいし、共感も得やすいのではないか」と。ちょうどその頃、NPO法案が出来て、市民事業が起こしやすくなったという背景もありました。
 2001年に再エネNPOを立ち上げて、大分県や大分市や生協の屋根などに「大分県民共同発電所てるてるちゃん」という名前の太陽光発電を合計10機を作って、電気の産直運動を行いました。目標は「市民電力会社」を作ることです。電力自由化で新電力がたくさんできましたので、今は薪を作って販売したり、ヤギやニワトリを飼って、自給自足をめざす生活をおくっています。

電力会社の公益性と原発の必要性

 2年前の2016年4月1日より、一般家庭の電力の自由化ががやっと始まりました。なぜやっとかというと、OECD加盟34カ国の中で電力自由化は、日本が最後だからです。日本の電力自由化には「発送電分離」の方法など山ほど問題がありますが、それでも始まったことは一定の評価をします。
 これまでの電力会社は地域独占と総括原価方式に守られて販売競争もなく、価格も安定している殿様商売でよかったのですが、これからは自由市場の競合相手の多い普通の商品に生まれ変わりました。だから電気もスーパーでキュウリやナスを買うように、消費者が自分好みの電気を自由に選んで買うことができるのですから、再エネ電力がいいか原発の電気がいいか、結果的に、発電方法を選ぶ主役が電力会社から消費者へ入れ変わったと考えてもいいでしょう。つまり消費者が原発がいやなら原発の電気を買わなければいいのです。これからは消費者による電気の不買運動が簡単にできるようになったのです。
 昨年末の一般家定の電力の新電力への乗り換え率は、関西電力が最高で18%。東京電力15%。全国平均10%です。それに工場などの高圧電力は12.1%(昨年4月経産省発表)で、全電力の22%以上が乗り替えていて、新電力は着実に増えています。
 私は2016年の5月に新電力に乗り替えたのですが、その時担当者は「原発がいやだから乗り替えるというお客様は多いですよ」と話しいていました。
 これまでの地域独占の電力事業は「電力の安定供給の義務」もあり「公益性」もありました。そして原発は電気の30%を賄っていたので、原発が止まれば電気が足りなくなるという理由などから、原発裁判では「少々の原発事故の不安はあっても受忍限度内だ」という裁判所の判断が出されていたのしょう。しかし、原発事故で何年も原発は止まったままで「電力地域独占」も終わり、電力会社の独占率もどんどん減っているのですから、電力会社の公益性も原発の必然性もありません。いま四国電力が伊方原発を動かす唯一の必然性は企業の収益のためだけです。

企業モラルが問われる

 私の両親は満蒙開拓団員でした。2人の息子を亡くして母親1人で日本に帰って来ました。父親はシベリアに抑留されました。そんな開拓団仲間の方が佐賀県に帰って養豚業ををやっています。今は息子さんが後を継いでいるのですが、最近聞いた話です。養豚場はハエと匂いがすごいので、人家の少ない土地で養豚を始めたそうですが、そこにも家が建ってきて、周辺住民から出て行けという声が起こり仕方なく、もっと田舎の方へ引っ越したそうです。今はまだ家が少ないのでいいのですが、またいつ引っ越さなければならなくなるか不安だそうです。
 こんな零細企業の社長が周辺住民の健康に配慮して商売を行っているのです。しかも後から来た人が、前から居た養豚業者に「くさいから出て行け」といわれて、出て行くのです。
 四国電力の社員の皆さん、しっかりと聞いてください。私は伊方原発が出来る前から大分に住んでいます。放射能は色も匂いも味もしませんが、浴びたら大変な健康被害を受けます。原発を建てるとき電力会社は「事故は絶対に起こりませんが、万一起こっても周辺8キロから10キロまでしか放射能は漏れませんから大丈夫です」と言って建てさせてもらったのでしょう。それが真っ赤なウソだったことを福島原発事故が証明しました。それなら契約は白紙に戻すが当たり前でしょう。
 2011年6月18日に、福島から350キロ以上離れた静岡のお茶が大量の放射能によって、フランスから茶葉が返品されたことがありました。伊方原発がメルトダウンしても、大分まで放射能が来ない場所、350キロ以上離れた場所まで原発は引っ越してください。私の知り合いの養豚業者のように。それが日本国憲法の下に与えられた私たちの権利です。私たちの要求は基本的人権と人格権の最低限の行使です。裁判官の皆さん、どちらの主張が正しいか、分かりきったことではないでしょうか。四電の主張は福島原発事故の後の、私たちの受忍限度を遙かに超えています。

原発と再エネは共存できない

 これまでの仮処分審尋や口頭弁論でも「原発事故の危険性」を中心に議論されてきましたので、私は少し視点を変えて、世界で今起こっているエネルギー革命について話したいと思います。
 米国カリフォルニア州では2030年に電力会社は販売電力の50%を再エネにしなければならないという法律が2016年に成立しました。同州で唯一原発2基を所有している電力会社PG&E社は、再エネ50%を達成させるには原子力では負荷調整を行うことは困難と考え、2025年には原発2基を廃炉にすることを決定しました。なぜなら再エネ50%を達成させるには再エネの主力である、太陽光発電は晴天の昼間しか動きません。そこで、太陽光発電で電力50%を賄おうとすると昼間はほとんどを太陽光発電を運転させて、夜だけ化石燃料とならざるを得ないのです。原子力は一年中一定の発電量を生み出すので、再エネ50%とは共存できないのです。同じことは日本でも考えられます。「パリ協定」で日本は2050年には温暖化ガス80%削減を約束していますが、電力に関しては二酸化炭素ゼロでなければならないのです。つまり、2030年には日本も二酸化炭素の割合を50%以上の削減が求められるでしょう。再エネ以外で止めたり動かしたりできるのは天然ガスしかありません。先の展望が全くない原発の運転に多額の金をつぎ込むことは電力会社にとっても自殺行為でしかないのです。
 現在、資源エネ庁が公表している、日本の原発の平均的な発電コストは3・11前までは5.3円と言っていましたが、2012年から8.9円以上と言っています。でも、その8.9円以上は福島原発事故の廃炉費用などを11兆円という根拠で計算した金額ですが、それが2016年には21兆円と見積もられているのです。実際には70兆円を越えると民間シンクタンクの日本経済研究センターは出しています。(2017年4月2日 東京新聞)つまりは次々と膨らむ原発事故費用を発電コストに加えれば、原発の発電コストはいくらになるか見当がつきません。
 それに対して日本の太陽光発電の発電コストは約20円と言われていますが、昨年12月17日のNHKスペシャル「脱炭素革命の衝撃」で中国や中東では太陽光発電のコストが3円とか2円だと解説していました。しかも5年後には半額になるだろうと話していました。
 日本も「パリ協定」に参加したので、2050年ころには温暖化ガスはほとんど出せなくなるのです。すると、石炭火力がいくらコストが安くても発電所は動かせないし、発電コストでも太陽光発電が石炭火力も抜くと同番組では言っていました。つまり将来有望な電力は再エネ電力しかないのです。だから世界中の投資家が「再エネが一番儲かる」から再エネへの投資に火がついたのです。
 3月29日の朝日新聞によると、ソフトバンクの孫正義さんがサウジアラビアに2030年までに100万キロワット級の原発200基分の太陽光発電を21兆円かけて建設するそうです。
 2050年にはガソリン車が動かせなくなるとEU諸国で電気自動車への転換が計画されています。特にカリフォルニア州のZEV規制という電気自動車を促進させる法律により電気自動車の開発競争に火がつきました。
 普通は電気自動車が増えれば電力需要が増えるので、むしろ原発は必要になるのではないかと思うかもしれませんが、電気自動車は再エネと相性がいいのです。
 マイカー所有者が毎日1時間車を運転するとしても車の稼働率は4%です。96%は車庫に置かれたままです。日産リーフのバッテリーが40kwhですから、リーフ100万台がコンセントに繋がれていたら、100万kwh原発の電力を最大で3時間50分蓄える能力がある計算になります。電気自動車は不安定な再エネ電力を安定させるための出力調整の役目をしてくれる可能性があるのです。
 日本政府や電力会社が、この流れを止めたいと願っても世界中で勢いついた「再エネ革命」の流れは誰も止めることは出来ません。再エネ電力はまだまだ安くなります。それに対して原発はますます事故防止対策費の負担に迫られて発電コストはどんどん上がるでしょう。世界中の原発メーカーはどこも虫の息です。フランスの国営アレバも赤字倒産の危機。日本の三菱も日立も東芝はもちろん、大赤字です。


次世代へ私たちの責任

 米国のトランプ大統領は「パリ協定」の脱退を表明しましたが、米国の大企業やカリフォルニア州など大きな州の大半がパリ協定にとどまって、温暖化対策を行うそうです。
 この国の総理大臣は日本の成長戦略の3本の柱が武器輸出と原発輸出とカジノの誘致だと言い、原発再稼働を進めると宣言しています。しかし、私は米国市民や企業の良心的な取り組みに見習うべきものが大いにあると思います。選挙で政権を変えれば政治を変えることができるでしょうが、選挙以外でも政治を変える方法はあります。私が川崎市で体験した、ゴミの収集方法をみんなで変えたように。そのためには、私たちひとり一人が諦めずに「何が正しくて、何が将来の世代のために今選択すべきか」を自から考え、自らが行動し続けることが大切なのだと思います。
 私が死んだ後も、かわいい私の孫が平和に安心して暮らすためには、この裁判を負けるわけにはいかないのです。だから私は裁判所の中でも、裁判所の外でも40名を越える大弁護団に支えられながら、500名の原告と200人を超える応援団と、この裁判に感心を持ってくれている多くの県民や国民と一緒に、日本中の原発を1基残らず止めるまで、たたかい続けることを肝に銘じて、わたしの意見陳述とします。

伊方原発運転差し止め訴訟 大分地裁第9回口頭弁論 原告意見陳述書(第2案)_d0174710_10531934.jpg

by nonukes | 2018-04-02 18:49 | 原発再稼働は許さない | Comments(0)

  小坂正則

by nonukes