2017年 10月 23日
「大飯原発1,2号廃炉へ」100万キロワット級の原発廃炉がこれからの原発廃炉の流れを作り出す
新電力と再エネ電力の普及が大飯原発の廃炉を作り出した
小坂正則
地元自治体を気遣って廃炉と言えない電力会社
10月17日に「関西電力が大飯原発1、2号の廃炉を決めた」という新聞報道がありました。これまで廃炉が決まった5基の原発はどれも100万キロ以下の小規模原発でしたが大飯原発1、2号は118万kwと100万キロを越える大型原発の廃炉は初めてです。ですから、この関西電力の決断が他の電力会社にも大きな影響を与えることでしょう。これまで九電の玄海1号は廃炉を決めていますが、玄海2号は1号と同じ55.9万kwですが、廃炉という発表はしていません。四電も伊方1号は廃炉を決めていますが、2号56.6万kwは廃炉にするかどうかは決めていません。
もちろん、経営陣はとっくに廃炉を決めているのでしょうが、地元への信頼関係を壊すことを怖れて言い出せなかったのです。これまで九電との交渉で、私は何度も「玄海1号は廃炉を決めたが、2号も廃炉ではないのか。もし、動かすなら再稼働に向けた工事を行っているのか」と質問をしたら、「工事は全くしていませんが結論は出していません。検討中です」と。四国電力も伊方2号はもう何年も「検討中」だそうです。
全国の稼働中の原発は5基だけです。今後玄海3、4号が来年にも再稼働の予定されていますが、「検討中」という原発は本当は廃炉が決まっているのです。なぜなら再稼働には莫大なコストがかかるからです。九電は玄海原発と川内原発の再稼働に3500億円以上の工事費用がかかっています。これから作る予定の免震重要棟(耐震棟で十分と九電は言っています)などを含めると6千億円を超えると言われています。玄海3、4号と川内原発も60年運転を企んでいることでしょうが、川内原発1号は7年後の2024年には40年運転が経過して20年延長させるには、数千億円の再点検と安全対策工事が必要となるのです。
原発のコストはますます上がる
再稼働のために規制庁の検査を受けるには数千億円という安全対策工事が必要ですが、田中元規制委員会委員長の発言にあったように「安全対策に終わりはありません」なのです。マスコミや消費者が「安全対策が不安だ」と言えば次々と新たな対策が要求されることでしょうから、ますます原発を動かすためのコストはかかるのです。それらの安全対策工事が必要になってくるのは、再稼働反対運動や私たちが全国で取り組んでいる原発裁判などの世論やマスコミの声によって、これまでのおざなりの安全対策では運転できなくなったのです。もちろん私たちはいくら安全対策の工事や避難計画をしたからといって、それで安心するわけではありません。一番の安全対策は一刻も早く原子炉を止めることです。しかし、目の前の安全対策や避難計画などを求め続けることはいざというときのためにも必要なことです。ですから私たちは廃炉になるまで、際限なく安全対策も避難計画の充実も求め続けるのです。つまり「費用対効果が合わない」という理由で関電が決定した大飯原発廃炉は、私たちの運動の一定の成果とも言えるのではないでしょうか。
川内原発は再稼働されてしまいました。四電の伊方原発も止め続けることはできませんでしたが、原発の運転停止を求める仮処分裁判を次々に起こすことで、電力会社の『司法リスク』(裁判所の判断で原発を動かすことができなくなるリスク)は確実に上がったのです。その結果、四国電力は「電気料金の値下げは仮処分の決定が出るまでは実施できない」と言って、値下げは実施されていません。それどころか既存の電力会社は今年の9月から電気料金の値上げを実施しているのです。ですから、私たちには「廃炉を勝ち取るまで負けることはない」のです。
裁判や世論の力が廃炉へ影響
私たちの裁判の圧力や反対運動など世論の力を定量的に測ることは不可能ですが、電気料金にこっそり隠していた原発のコストは電力自由化である程度見えてきたのかもしれません。というのも、これまで地域独占の電力会社の電気料金の中に隠されていた原発のコストが電力自由化により、新電力との競争の中で、電気料金に紛れ込ませることができにくくなって、これ以上原発を動かし続けることができなくなったという理由もあるのでしょう。
新電力会社が電力会社の送電線を使う時の送電線使用料(託送料平均9円)の中にはいまだに核のゴミの処理費など原発のコストは紛れ込まされています。2020年の発送電自由化からは既存の電力会社の原発の廃炉費用もこの託送料に入れようとする動くもあるのです。福島原発事故による損害賠償費用も託送料に入れられることが決まりました。
このように、電力自由化で電力会社の独占状態が解消される動きに逆行するように、託送料金に何でも紛れ込ませようとしているのです。そうしなければ既存の電力会社の顧客だけが原発のコストを払うようになれば、既存の電力会社の電気代がどんどん値上がりしてしまうからです。
再エネ電力の普及が原発を駆逐する
小宮山宏氏の「日本も原子力ゼロは達成できる」の文章に「2016年に世界で実行された発電所投資額の70%が、再生可能エネルギーに向けられ、投資額の25%が火力発電所で、原発の投資額は5%」とあるように、世界中で昨年建設された発電施設の大半が太陽光発電や風力発電なのです。その理由は簡単です。再エネの発電コストが一番安いからです。すでに風力も太陽光発電も発電コストが1kw当たり10円を切っています。日本の原発は安く見積もっても12円以上の発電コストです。しかも米国の企業では工場の屋根に太陽光発電を設置して電気を自家消費した方が、電気を買うよりも安く上がるというのですから、ほっといてもこの流れは加速するでしょう。それに投資減税というメリットもあるそうです。
それに、関電が大飯原発廃炉を決断したもう1つの理由があります。それは日本の少子高齢化で電力需要はこれから減るばかりなのに、何千億円も原発に投資するということは、これから20年もの長期間にわたって投資した資金を電気の販売で回収しなければならないのですが、新電力が再エネ電力という安い電力で販売攻勢をかけてきたら、原発では太刀打ちできないのではないかという不安もあったのでしょう。ですから、世界中で原子炉メーカーが赤字となり、ドイツのシーメンスのように原発から撤退しているのです。
この流れは止められません。これから新規の原発を作る動きなど国内では起こり得ないでしょう。20年という歳月をかけて1兆円もの投資をして原発を作っても、完成した頃には1キロワットも発電する前に不良資産となって、そのまま廃炉にしなければならないかもしれないからです。世界の電力やエネルギーを巡る流れは、「原発を作り続けたい」という安倍晋三首相や原子炉メーカーに電力会社の思惑がどんなにあったとしても、世界の流れに抗うことなどできないのです。
廃炉を増やすため新電力へ乗り換えよう
九電の顧客シェアは約5%減りました。僅か5%と言えども、これまで地域独占で電気料金を電力会社が一方的に決めていたのが、今度は新電力というライバル会社の料金と競争しなければ電気料金を決められなくなったのです。ですから、『親方日の丸』のどんぶり勘定の経営などできなくなりました。関電が思い切って大飯原発1、2号を廃炉と決断したのは大阪ガスとの熾烈な電力販売競争があったからでしょう。原発立地の地元への配慮などしている経済的な余裕がなくなったのです。
このような動きを加速させるためには、原発を持っている9電力会社から新電力への乗り換えをどんどん進めて、既存電力会社(沖縄電力を除く)のシェアを大幅に減らすことが何よりも必要です。原発の電力会社の電力が売れなくなればなるほど、既存の電力会社の電気料金は値上がりし、値上がりすればするほど新電力の電気料金との差が大きくなり、それが新電力への切り換えへと消費者マインドを刺激して、ますます乗り換えが進むからです。
もちろんそんなに簡単に新電力への乗り換えがスムーズに進むわけでもありません。なぜなら新電力が販売する電気の大半が既存の電力会社から購入しているからです。つまり、既存の電力会社の電気料金が上がれば新電力の卸電気料金が上がり、その分新電力会社の販売電気料金も値上げすることになるからです。ただ、原発の電力会社のシェアをとにかく落とすことが、今最も私たちが取り組むべき緊急課題なのです。
2020年から行われる発送電分離の問題や託送料金決定の不明確さなど、電力自由化の矛盾は様々と積み残されたままですが、それでも既存の電力会社のシェアを落とすことは「原発の電気はいりません」という、私たち『消費者の意思』を明確に示すことになるのです。まだ九州電力の電気を使っている読者の皆さんは、1日も早く新電力へ乗り換えましょう。
関西電力 大飯原発1、2号機の廃炉へ 大型炉で初
毎日新聞2017年10月17日
関西電力が、2019年に40年の運転期限を迎える大飯原子力発電所1、2号機(福井県おおい町)を廃炉にする方針を固めた。東電の福島第1原発事故で国の安全基準が厳格化されてから、各電力会社で、運転期限を迎えた、発電能力が小規模な原発の廃炉が決まっている。大飯1、2号機は発電規模が大きく効率がよいとされる原発だが、補強や耐震化のコストが膨らみ、運転期間を延長しても採算がとれないと関電はみている。
大飯1、2号機の出力はそれぞれ117.5万キロワット。震災後に廃炉が決まった原発は、福島第1原発以外に6基あり、大飯はそれらより発電能力は大きい。震災後は一度も稼働していない。
政府は原発の運転期間を原則40年と定め、原子力規制委員会の認可があれば、最長20年の延長を認めている。ただ、福島原発のような事故を防ぐため、新たな安全基準を13年に法制化。再稼働や運転延長には膨大な安全対策費が必要になった。
大飯1号機は1979年3月、2号機は同年12月に運転を開始。いずれも19年に40年の期限を迎える。大飯1、2号機は原子炉格納容器が狭く入り組んだ構造で、配管などの補強工事が難しい。さらに周辺に活断層があって地震時の揺れの想定値が東日本大震災以降、段階的に引き上げられ、耐震化の工事費も膨らむことが予想される。
by nonukes
| 2017-10-23 13:24
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