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小坂正則の個人ブログ

安倍政権のめざす「原発の価格保証制度」は電力自由化に値しない

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安倍政権のめざす「原発の価格保証制度」は電力自由化に値しない
小坂正則

今年の2月28日に安倍政権は「2016年から電力小売り事業参入の全面自由化を行う」という年閣議決定を行いました。これで「日本もドイツのように自由に電力会社を選ぶことができる」と多くの方が思っているかもしれません。しかし、私たちが携帯電話を自由に選べるような自由などが望めるわけでは決してないのです。
まず、基本方針として「小売りの自由化」や「電力事業への参入の自由化」は決定しましたが、それは自由化のための入り口に過ぎないのです。自由化のための最大の問題は発電と送電と配電の3事業を完全に分離して、公平で透明性のある適正な競争が行われることが保証されることが一番重要なのです。
2月に閣議決定された中身は経産省の中に設置してた「電力システム改革専門委員会」が3段階の行程で「電力自由化」を行うと決めたのです。まず、2015年に①広域系統運用の拡大はかる。そして2016年に②小売及び発電の全面自由化を行う。そして最後に2018年から20年までに③発送電分離によって送配電部門の中立性を確保する。という計画なのですが、安倍政権になってから激しい電力会社の巻き返しによって3番目の発送電分離が怪しくなって来ているのです。この発送電分離が完全に別会社にするのではなく、電力会社の子会社や系列会社として残す方向に向かっているのです。なぜなら、電力事業で一番儲かるのは発電部門ではなく、送電部門だからです。送電線を確保していれば送電線は競争がないので、安定して利益が確保できるからです。発電部門はこれから生きるか死ぬかの激しい競争に晒されるからです。ですから、送電部門は一企業が行うのではなく公共インフラとして公的に運営されるべきなのです。さて、本来は3番目に行うという発送電分離の内容が決まってから1番目の広域系統運用や2番目の電力市場化などに取りかかるべきなのですが、発送電分離を最後にしてどうして電力市場の開設などが出来るのでしょうか大変疑問です。

太陽光発電の電力を邪魔するために電力会社や国は広域運用の拡大工事をやらない

電力自由化の工程表によれば2015年には「広域系統運用の拡大をはかる」ということは電力会社間の連携送電線を太くして、自由に電力を売り買いできるようなインフラ整備を行う予定なのですが、それもまだ計画は出来ていません。特に太陽光発電などの電力固定価格買取制度をスムーズに進めるためにも連携線を太くすることを早急にやる必要があるのですが、国は全くやる気はないようなのです。というのも、9月24日に九電が「太陽光発電などの電力事業の申し込みを一時中断する」と発表しましたが、その理由に挙げたのが、「太陽光発電など変動の激しい電力が多くなると負荷変動が大きくて停電になる」というのですが、九州の電気を中国や関西の送れば、その募集の中止は必要はなくなるのです。なぜなら九州は確かに申し込みが多いのですが、中国や関西では申し込みの量が少ないから、そっちに送れば解決する問題なのです。ですから、再生可能エネルギーの電力を増やすためにも系統連携線を太くする作業は早急にやらなければならないのですが、太陽光発電の電力を拒否するために、あえてその作業を行わないのではないかと疑われるのです。

「原発は安くない」から何とかしてくれと関電社長が言いだした

「競争環境下で原子力発電をこれまで通り民間が担っていくには、予見性を持って事業に取り組める環境整備が大事。費用が確実に回収されることが大事だ。そのための官の支援を是非ともお願いしたい」。9月19日の定例記者会見で、電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は訴えた。国に求める支援策として八木会長は、「廃炉に絡む財務・会計リスク緩和措置」、「原子力燃料サイクル事業における新たな官民の役割分担」、「規制や政策の変更、電力システム改革による競争の進展といった環境変化を踏まえた措置」を挙げた。(東洋経済 2014年10月02日)
つまり、八木電事連会長は原発は高くて電力自由化の競争にはとうてい参加できないと白状したのです。
その八木会長の声にあうんの呼吸で応えるように、資源エネ庁のエネルギー部会で経産省は「原発の電力価格保証」案を出してきたのです。この案というのは電力市場で売り買いする場合、原発の最低価格を保証して、その価格よりも実際の価格が下がって売り買いされたら、その差額を補償するという考えです。これはまるで再エネの電力固定価格買取制度と同じような原発価格補償制度です。そしてその差額は誰が払うかというと、消費者から均等に徴収するというのですから、そんな制度は自由化でも電力市場取引でも何でもありません。第二の総括原価方式です。
この制度は英国ですでに行われている制度で、原発の最低価格補償が15.7円で、しかも35年間価格を補償するというのです。英国では原発100万kw1基作るのに1兆円以上かかるということからこのような方式を採用したそうです。フィンランドのオルキト原発は1基2兆円以上ということです。日本でも新規の原発を建てるためには40年間の価格補償がなければ投資出来ないということで、安倍政権は新規原発の原発建設を目論んでいるのでしょう。

既得権益を守ってきたのは自民党の族議員と官僚と経済界のトライアングル

国の規制には大きく分けて2つがあります。1つは経済的規制です。これは「地域独占」などいま最も大きな問題とされているものです。そしてもうひとつが社会的規制です。これは環境保護や健康被害への規制や労働者の権利を守るための規制などです。再エネ固定価格買取制度などは一見すると経済規制のように見えますが、これはれっきとした社会的規制です。化石エネルギーによる二酸化炭素の排出によって生じる地球温暖化防止のための制度なのです。
日本のこれまでの経済政策は各省庁の官僚が取ってきた護送船団方式といって、各産産業界の既得権益を守るための利益を調整して来たのです。そのために各省庁内ににガス村や電力村や道路族村など各産業分野と官僚と政治家のトライアングルが出来上がって、それらが時には対立したり談合たりして日本社会に様々な経済規制を作って彼らの既得権益を守ってきたのです。そのための財源としてガソリン税や電源開発特別税などの特定財源を原資に自民党の族議員が全国に高速道路や原発を作り続けてきたのです。
その政策は70年代の高度経済成長までは大きな問題も出ることなく進めることが出来ました。なぜなら日本社会全体のパイが大きくなれたからです。しかし、80年代後半からバブルがはじけて経済成長が止まった後は、これまで経済規制分野が日本社会の経済成長や新たな産業の誕生を阻害する要因として大きな社会問題となって来たのです。
その経済規制を壊したいい例が通信事業の自由化でした。そしていま、電力自由化が20年前からヨーロッパを中心に世界中で進められてきたのです。電力自由化は日本の経済成長やエネルギーの効率化を阻害する最も大きな規制改革です。ただ、TPPなどの貿易自由化は改革の側面はあるのかもしれませんが、それによって国民皆保険や医療格差や食の安全などが脅かされるという社会的な問題が生じる可能性があるのです。それに比べて電力自由化には「再エネ導入」など以外には社会的規制の必要性がない「電力会社の既得権益」なのです。ただし、自民党タカ派の連中や外務省の中には「原発や核燃料サイクルから撤退することは核武装の可能性を捨て去ることになり、防衛上の外交カードを失うことになる」という人にとっては大きな問題なのでしょうが。

電力自由化のためには「発送電分離」と再生可能エネルギーを進めよう

OECD加盟国内で発送電分離が行われていない国はメキシコと日本だけです。そんな北朝鮮のような独裁的な電力供給体制を維持している既存の電力会社を優先した「地域独占」と「総括原価方式」は一刻も早くやめなければなりません。そのために一番重要な改革は「発送電完全分離」した上での電力自由化です。そして政府が電力会社の経営に口出ししない経営の自由化が必要なのです。発送電分離の自民党案はすでに「電力会社の送電子会社化」が取りざたされています。送電会社が発電会社の子会社であれば利益の付け替えなどが行われて、送電線使用料を高めに設定して新規事業者に高い送電線使用料を科せられる可能性が高いからなのです。資本関係のない送電会社が必要な理由はここにあるのです。
そして送電会社は公共インフラとして発電会社が平等に競争して利用すればいいのです。その時点で既存の電力会社が原発を持っていたとしても、国からの一切の保護をなくして競争するのであれば原発を動かせばいいでしょう。もちろん社会的規制を通った原発でなければなりませんので、文字通り「世界一厳しくて安全な原発」でなければなりません。当然のこととして「コアキャッチャー」や「二重の格納容器」など世界中で最先端の最も厳しい安全基準をクリアーしてもらってのことです。

既存の電力会社には電力自由化競争に参入する資格などない

そして「電力自由化」後に新たに国民へのツケを押しつけられる問題が浮上するでしょう。それは核のゴミの維持管理費用負担です。六ヶ所村再処理工場の建設費が12兆円以上で、これから全ての核のゴミを再処理したら19兆円も必要になると言われています。もちろん再処理は早晩中止されるでしょうし、核のゴミの処分場である「もんじゅ」も電力自由化とともに消えるでしょう。しかし、既存の電力会社はそれら核のゴミの費用は電気料金に1kwhあたり1円の上乗せをして消費者から取っていたのです。それらの費用は新規の発電会社から取ることが出来なくなりますから、既存の電力会社は自分の電気料金からそれらの費用を出さなければならないので、売り上げが半分になれば1kwあたり2円の電気料金の負担金になります。つまり、自由化して電気の売り上げが減れば減るだけ、コストは大幅に増すのです。自由化すればいよいよ既存の電力会社はやっていけなくなるのです。もっと端的に言えば、既存の電力会社が全て倒産してしまったら、いま残っている核廃棄物の管理費用は結局は国民が負担するしかないのです。つまり、国民が後で電力会社の尻拭いをさせられるのであれば、早く原発をやめて出来るだけ核のゴミをこれ以上増やさないことが最善の策なのです。その分だけ国民の負担は減るのですから。だから、彼らには自由化の前にこれらのマイナスの資産をきちんと精算してもらわなければ本当は自由化競争に参入する資格はないのです。原発の廃炉費用だって積み立てが足りないのですから、これらの費用も積み上げたら1社で数兆円以上の核のゴミという負債を抱えていて、これからそのゴミを永遠に管理し続けるという義務を果たさなければならないのです。そんな電力会社が自由競争の中で本当に生き残れると思いますか。
実際には完全自由化して地域独占と総括原価方式をやめたら既存の電力会社は原発のない沖縄電力以外はバタバタと倒産してしまうでしょう。つまり、今の電力会社というのは国の保護の元で国民の税金を当てにして生きてきたし、これからも生きていこうとしている「寄生虫」のような国営企業以外の何ものでもないのです。(続く)



by nonukes | 2014-10-05 15:37 | 電力自由化 | Comments(0)

  小坂正則

by nonukes