2014年 02月 04日
東京都庁には脱原発を実践したすばらしい環境部長がいた
東京都庁には脱原発を実践したすばらしい環境部長がいた 小坂正則
『自治体のエネルギー戦略-アメリカと東京』 大野輝之著 岩波新書版
岩波新書の『自治体のエネルギー戦略-アメリカと東京』大野輝之著という著書を私は先日読みました。実にわかりやすい本でした。また、よくこのように言う人がいます。「一地方自治体で環境政策などできない」と。しかし、この本を読めばそれがいかにウソかということがよく分かります。地方自治体の幹部の方が自分たちが何もしないことの言い訳にそのようなことを言うのです。
私も以前、地方自治体の環境行政やエネルギー政策の審議会などの末席に座らせてもらったことがありました。そして感じたことなのですが、本当に1人の熱意ある職員さえいれば大きな政策を作り上げることも決してできなくはないのです。大分県には「エコエネルギー促進条例」という条例があります。この条例のおかげで、私のNPOが作った、太陽光発電の大分県民共同発電所「てるてるちゃん」があります。公共施設に県民のお金で太陽光発電などを設置できるという条例です。私たちの設置した「てるてるちゃん1号」が、この条例の1号の実施でした。この条例を作るために、1人の大分県職員が、寝る間も惜しんで作り上げた制度です。だからやる気さえあればできないことの方がむしろ少ないのです。「やってはならない」と、地方自治法に書いてある以外のことはやっていいのです。
もちろんその政策や制度が社会的な要請や必然性がなければできないことは当然ですが、やろうとして努力しないで、自分が何もしない言い訳として「できない理由」を公務員の方々は一生懸命に考えるのです。それよりも、本当に努力してだめだったら、それから諦めればいいのです。
そんな公務員の反面教師のような方が東京都職員で環境部長だった大野輝之さんです。この方は昨年の7月に都職員を退職してしまったので、今は元職員です。この方は「ジーゼルトラックの排ガス規制」や東京都に在籍している大企業1000社に温暖化対策のための省エネ義務化を求める二酸化炭素排出量取引制度の「東京都キャップ&トレード」制度(注※)などを導入させた人です。
この方、現在は孫正義さんが立ち上げた「自然エネルギー財団」の常務部長です。彼の出した都知事選での「原発は都知事選の争点にふさわしくない」という政府や安陪首相や舛添候補などへの反論です。以下の声明は「自然エネルギー財団」には無断で私が勝手に掲載しました。
東京都知事選挙と「原発問題」について
2014年1月31日 大野 輝之 自然エネルギー財団常務理事
「原発は都知事選の争点にふさわしくない」という意見がある。東京は、老朽化するインフラ対策、防災、待機児童、一人暮らし高齢者への対応など多くの課題に直面しており、選挙がシングルイシューではいけないのは、そのとおりだ。
しかし、3・11後、環境局長として東京の行政の一翼を担った者として、「原発は国の問題で、地方政治の問題ではない」などという主張には、とても与せない。
東京もまた、東京電力福島第1原発事故によって深刻な問題に直面した。当時の気象条件の偶然によって、東京全体が高濃度に汚染されるという最悪の事態は避けられたものの、多くの都民が見えない汚染への不安にさいなまれ、廃棄物処理、上下水道など行政の現場では、職員が初めて遭遇した放射能汚染に向き合うことを強いられた。
そして都民と都内企業は、2011年3月の計画停電と7、8月の電力使用制限令の発動によって、原発という大規模集中型電源に依存してきた電力システムの脆弱さを、身をもって体験した。電力は、人々の暮らしと企業の活動に関わる重要問題であるからこそ、国政だけでなく、地方でも問われるべきものなのだ。
他方、3・11以降の東京の経験は、原発に依存しなくても都市の成長を維持できる可能性も示している。東京では、以前から地球温暖化対策として、省エネに積極的に取り組んできたが、その蓄積もいかして、震災後、既に10%以上の電力使用量を削減している。首都圏全体の夏の最大電力では、原発10基分が削減された。
自然エネルギーの供給拡大、コージェネレーションなど分散型電源の導入も加速してきた。
東京の取組は、全国の原発が停止し節電が日本全体の課題となる中で、関西など他の地域でも参考にされたし、東京本社で先行した節電の経験を、全国の事業所に水平展開している企業も多い。なぜ東京が原発なしでも暑い夏を乗り切れたのか、フランスの大手電力会社など調査に訪れた海外企業も少なくない。
都には原発に関する許認可権限は無いし、立地県のように再稼働に拘わる協定を電力会社と結んでいるわけではない。しかし、既存の制度的枠組みで権限が定められていなくても、地方自治体にできることはいくらでもある。
これまでも東京都は、環境、福祉、都市づくりなど多くの分野で、既存制度の限界を打破し、先駆的な施策を生み出してきた。原発に依存しない社会をめざす都行政のリーダーが誕生すれば、東京を原発分の電力なしに活力ある世界一の都市にすることができるし、脱原発をめざす全国の地方自治体の声を一つに束ね国に迫ることもできる。これが国の政策に影響を与えないはずがない。
エネルギー供給のあり方は、今後ますます、大規模集中型から分散型に転換してくる。そうなれば、エネルギー政策決定における地方自治体や地域コミュニテイーの役割は一層重要になる。
東京都知事選挙は、いつの時代も、時代の変化を先取りしてきた。今回の都知事選で、原発の問題が大きな争点となり、日本と世界の人々に、二度とあのような惨禍と恐怖の体験を強いることのない安全で持続可能なエネルギーシステムへの転換を果たす契機となることを切望している。
大野 輝之さん
東京都庁入庁後、都市計画局、政策報道室等を経て、1998年より環境行政に携わる。持続可能な都市作りを基盤に、「ディーゼル車 NO作戦」「排出量取引制度」の導入など、国に先駆ける東京都の環境政策を牽引。2013年7月15日退庁。2013年8月1日付けで、公益財団法人自然エネルギー財団(JREF)の事務局長に就任。財団でははじめての常任事務局長となる。
自然エネルギー財団
(※)東京都のキャップ&トレード
2010年4月からスタートした、都内の大規模事業者を対象に、CO2の排出総量削減を義務付けて、事業所間の排出量取引を認める制度。当時は世界でもまだ事例の少ない取り組みだった。詳しくは、「【解説】東京都でスタートした「キャップ・アンド・トレード」とは?」参照。
『自治体のエネルギー戦略-アメリカと東京』 大野輝之著 岩波新書版
岩波新書の『自治体のエネルギー戦略-アメリカと東京』大野輝之著という著書を私は先日読みました。実にわかりやすい本でした。また、よくこのように言う人がいます。「一地方自治体で環境政策などできない」と。しかし、この本を読めばそれがいかにウソかということがよく分かります。地方自治体の幹部の方が自分たちが何もしないことの言い訳にそのようなことを言うのです。
私も以前、地方自治体の環境行政やエネルギー政策の審議会などの末席に座らせてもらったことがありました。そして感じたことなのですが、本当に1人の熱意ある職員さえいれば大きな政策を作り上げることも決してできなくはないのです。大分県には「エコエネルギー促進条例」という条例があります。この条例のおかげで、私のNPOが作った、太陽光発電の大分県民共同発電所「てるてるちゃん」があります。公共施設に県民のお金で太陽光発電などを設置できるという条例です。私たちの設置した「てるてるちゃん1号」が、この条例の1号の実施でした。この条例を作るために、1人の大分県職員が、寝る間も惜しんで作り上げた制度です。だからやる気さえあればできないことの方がむしろ少ないのです。「やってはならない」と、地方自治法に書いてある以外のことはやっていいのです。
もちろんその政策や制度が社会的な要請や必然性がなければできないことは当然ですが、やろうとして努力しないで、自分が何もしない言い訳として「できない理由」を公務員の方々は一生懸命に考えるのです。それよりも、本当に努力してだめだったら、それから諦めればいいのです。
そんな公務員の反面教師のような方が東京都職員で環境部長だった大野輝之さんです。この方は昨年の7月に都職員を退職してしまったので、今は元職員です。この方は「ジーゼルトラックの排ガス規制」や東京都に在籍している大企業1000社に温暖化対策のための省エネ義務化を求める二酸化炭素排出量取引制度の「東京都キャップ&トレード」制度(注※)などを導入させた人です。
この方、現在は孫正義さんが立ち上げた「自然エネルギー財団」の常務部長です。彼の出した都知事選での「原発は都知事選の争点にふさわしくない」という政府や安陪首相や舛添候補などへの反論です。以下の声明は「自然エネルギー財団」には無断で私が勝手に掲載しました。
東京都知事選挙と「原発問題」について
2014年1月31日 大野 輝之 自然エネルギー財団常務理事
「原発は都知事選の争点にふさわしくない」という意見がある。東京は、老朽化するインフラ対策、防災、待機児童、一人暮らし高齢者への対応など多くの課題に直面しており、選挙がシングルイシューではいけないのは、そのとおりだ。
しかし、3・11後、環境局長として東京の行政の一翼を担った者として、「原発は国の問題で、地方政治の問題ではない」などという主張には、とても与せない。
東京もまた、東京電力福島第1原発事故によって深刻な問題に直面した。当時の気象条件の偶然によって、東京全体が高濃度に汚染されるという最悪の事態は避けられたものの、多くの都民が見えない汚染への不安にさいなまれ、廃棄物処理、上下水道など行政の現場では、職員が初めて遭遇した放射能汚染に向き合うことを強いられた。
そして都民と都内企業は、2011年3月の計画停電と7、8月の電力使用制限令の発動によって、原発という大規模集中型電源に依存してきた電力システムの脆弱さを、身をもって体験した。電力は、人々の暮らしと企業の活動に関わる重要問題であるからこそ、国政だけでなく、地方でも問われるべきものなのだ。
他方、3・11以降の東京の経験は、原発に依存しなくても都市の成長を維持できる可能性も示している。東京では、以前から地球温暖化対策として、省エネに積極的に取り組んできたが、その蓄積もいかして、震災後、既に10%以上の電力使用量を削減している。首都圏全体の夏の最大電力では、原発10基分が削減された。
自然エネルギーの供給拡大、コージェネレーションなど分散型電源の導入も加速してきた。
東京の取組は、全国の原発が停止し節電が日本全体の課題となる中で、関西など他の地域でも参考にされたし、東京本社で先行した節電の経験を、全国の事業所に水平展開している企業も多い。なぜ東京が原発なしでも暑い夏を乗り切れたのか、フランスの大手電力会社など調査に訪れた海外企業も少なくない。
都には原発に関する許認可権限は無いし、立地県のように再稼働に拘わる協定を電力会社と結んでいるわけではない。しかし、既存の制度的枠組みで権限が定められていなくても、地方自治体にできることはいくらでもある。
これまでも東京都は、環境、福祉、都市づくりなど多くの分野で、既存制度の限界を打破し、先駆的な施策を生み出してきた。原発に依存しない社会をめざす都行政のリーダーが誕生すれば、東京を原発分の電力なしに活力ある世界一の都市にすることができるし、脱原発をめざす全国の地方自治体の声を一つに束ね国に迫ることもできる。これが国の政策に影響を与えないはずがない。
エネルギー供給のあり方は、今後ますます、大規模集中型から分散型に転換してくる。そうなれば、エネルギー政策決定における地方自治体や地域コミュニテイーの役割は一層重要になる。
東京都知事選挙は、いつの時代も、時代の変化を先取りしてきた。今回の都知事選で、原発の問題が大きな争点となり、日本と世界の人々に、二度とあのような惨禍と恐怖の体験を強いることのない安全で持続可能なエネルギーシステムへの転換を果たす契機となることを切望している。
大野 輝之さん
東京都庁入庁後、都市計画局、政策報道室等を経て、1998年より環境行政に携わる。持続可能な都市作りを基盤に、「ディーゼル車 NO作戦」「排出量取引制度」の導入など、国に先駆ける東京都の環境政策を牽引。2013年7月15日退庁。2013年8月1日付けで、公益財団法人自然エネルギー財団(JREF)の事務局長に就任。財団でははじめての常任事務局長となる。
自然エネルギー財団
(※)東京都のキャップ&トレード
2010年4月からスタートした、都内の大規模事業者を対象に、CO2の排出総量削減を義務付けて、事業所間の排出量取引を認める制度。当時は世界でもまだ事例の少ない取り組みだった。詳しくは、「【解説】東京都でスタートした「キャップ・アンド・トレード」とは?」参照。
by nonukes
| 2014-02-04 21:16
| 脱原発選挙
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