2013年 12月 11日
日本の林業再生のための私案「山林所有者再編と木質バイオマスの熱利用で林業再生を」
日本の林業再生のための私案
山林所有者再編と木質バイオマスの熱利用で林業再生を
2011年2月7日
特定非営利活動法人 九州・自然エネルギー推進ネットワーク
小坂 正則
はじめに
日本の林業が衰退して人工林の管理が行き届かなくなって久しい。しかし、戦後全国で植林されたスギやヒノキが60年経って、ちょうど青年期を迎えている。このまま放置していたら、密集した山林の材は商品価値をなくすばかりか、土砂崩れなどの災害を引き起こす可能性が大きい。
わが国の木材自給率は、1960年には87%であったものが1970年には45%になり、1995年以降は約20%前後で、その後は限りなく減少していると思われる。また、日本の林業従事者は1960年には44万人だったのが、現在では10分の1の4万人弱だといわれているように、林業従事者をみても衰退の一途をたどってきたことが分かる。その原因は輸入外材に押されて国産材の価格も下がり、林業家はスギを切って売れば売るほど赤字になるので誰も山を管理しなくなったとも言われている。また、山を生業としている集団の大半が各地の森林組合だが、その森林組合自身が抱えた問題もあるのだろう。それは親方日の丸の意識で国の補助金や交付金を当てにして、経営合理化や最新技術の研究などに取り組んでこなかったことなどがあるのかもしれない。だから、「日本の農業をダメにしたのは農協で、日本の林業をダメにしたのは森林組合だ」と、よく言われるのだろう。
私は、林業の抱えた問題を検討して、林業再生の切り札となるアイデアを、私なりに考えてみた。「素人のくせに生意気なことを言うな」とお叱りを受けるかもしれないが、幅広い国民の議論とアイデアを出し合い、口も出し金も出し、汗も出すことこそが今こそ重要なのではないかと思うからだ。またこの文章を書くに当たって、梶山恵司氏の著書『日本林業はよみがえる』を参考にさせていただいた。氏は、森林組合のさまざまな矛盾や問題は抱えているが、森林組合抜きには林業の再生は現実的ではないので、森林組合の活用による林業再生を主張している。氏に言わせると「まさに今こそ林業再生のチャンス」だという。
私案その①
環境税の導入と固定資産税の見直しを
産業の復興や発展のためのさまざまな施策には必ず補助金などの予算が必要だ。しかし、この国は疲弊して補助金を出す財源がない。私は環境税や炭素税を導入して、その財源を新エネルギーによる国内産業の発展に使うべきだと考えている。しかし、そのためには産業界の反対が根強い。今の菅政権にその力があるとは決して思えないし、野党の賛成を得ることは非常に困難だと思われる。しかし、手をこまねいて黙って、この国が沈没していくの見過ごすわけにはいかない。そこで私なりに財源が必要ない、いえ、むしろ財源を生み出しながら林業関連産業を復興させる案を考えてみた。
山の固定資産税を10倍に上げ林業再生
地球温暖化防止京都議定書により、日本は二酸化炭素を2008年から2012年まで5年間に90年比で6%削減することが義務づけられているが、そのうち森林が吸収する二酸化炭素として3.8%が認められている。目標の6%から森林吸収分の3.8%を引けば実質は僅か2.2%の削減目標でしかない。それだけ森林吸収の恩恵は大きいのだ。しかし、森林吸収が認められるのは「適正に管理した森林」という前提条件がある。管理されていない人工林はその対象にならないのだ。
ところで、現在の日本の森林面積は約2500万ヘクタールで国土の3分の2を占めているが、そのうち1040万ヘクタールが人工林で1500万ヘクタール弱が天然林だ。そのうちの若干が原生林。その人工林と天然林の管理を行っていない所有者へのペナルティーを与えるべきではないか、というのが私の提案だ。
ところで日本の山林の固定資産税の算定基準は土地の価値よりも森林材の評価額によって決められている。国産材の価格崩壊によって固定資産税も信じられないような課税額となっている。価値を生み出す生産手段としての山林が価値を生み出さないのだから固定資産税が安いというのは理にかなっているが、不在地主と間伐を行わない山林崩壊現象が全国にはびこっている現状を打破して、日本の林業再生のために、大胆な改革をいまこそ行うべきではないか。
山林の固定資産税を現行の10倍に値上げする。しかし、実際に適切な管理を行っている林業従事者の山林は90%の減免措置を行い、現行の固定資産税額を維持する。不在地主や放置されている山林に対してのみ10倍の固定資産税が適用されるのだ。不在地主に対しては山林を手放す要因となるだろうし、手放したくない所有者に対しては生産協同組合の結成を呼びかけたり、森林組合への委託などへ誘導策を実施することによって入り組んだ山の地権者を集約する。そのような政策により複雑な山林境界線を整理し、意欲のある林業経営者や企業に林業を集中・集約するのだ。それによって大規模林業と材の搬出を計画的に行うことが可能となり、低コスト林業が実現できる。
固定資産税を10倍に上げることにより地方自治体や国には相当額の固定資産税を入ることになり、その財源は林業再生への財源として有効に活用できるし、子ども手当や介護保険や年金支給財源として使うことも可能だ。
また、山林の流動化により産廃の不法投棄や違法な開発などさまざまな問題も起こり得るが、そこは監視や違法行為に対しては厳しい措置を取ればいい。
日本の山林の複雑な境界線を見直し、大規模林業への起爆剤として大いにこの固定資産税10倍案は議論の価値があると考える。
私案その②
ドイツの林業の現状を見るとうらやましい限りだ。日本の森林面積とほぼ同じぐらいだが、伐採量は日本の3倍で、林業関連の従事者は100万人と言われている。その理由として、バイオマスの熱利用や環境税などによる林業への手厚い保護があるからだと思われる。
木を燃やして二酸化炭素を削減できる
木を燃やせば二酸化炭素が排出される。だから木を燃やすことは温暖化の原因になるのではないかと思うかもしれないが、木を燃やして出た二酸化炭素は、そこにまた木を植えてやれば、木が生長する課程で二酸化炭素を吸収してくれるのでプラスマイナスゼロと計算すると国際的に約束されている。例えば間伐した木を山に放置していたとすると、20年もすれば間伐された材は土に還ってしまう。それはバクテリアが食べて熱と二酸化炭素と水を出したのだ。これは木を燃やしたのと同じこと。違うのは時間をかけて炎を出さなかったということが違うだけだ。木を燃料として使うことは、その分だけ化石燃料を削減できるので温暖化防止に貢献できるのだ。
山は再生可能なエネルギー供給源
雑木山は戦前は薪や炭などの燃料として利用されていた。しかし、日本中の山はどこもはげ山にはならなかった。雑木の大半は萌芽更新(ほうがこうしん)と言って、切っても切り株から新しい芽が出て、20年から30年もすれば大木になる。つまり、山を30等分に区切って、毎年30分の1だけ切っていけば30年後には一回りして再度伐採することが出来る。油田は採ってしまえばやがて無くなるが、山は再生可能な油田と同じだ。木質エネルギーは繰り返して利用し続けることが可能なのだ。しかも日本は世界で3番目に森林面積比が大きな森林国なのだから、木質バイオマスを利用しない方がおかしい。日本は木質バイオマスの資源量が世界でもトップクラスの資源大国なのだ。
オーストリアに学ぶべきものが多くある
オーストリアは日本と同じくらいの国土で、その4分の3が山岳地帯で、森林率は約40%だ。人口はおよそ800万人で日本の10分の1以下の比較的小さな国だが、オーストリアはバイオマスの熱利用が1次エネルギーの12%と、森林資源のエネルギー利用が大変盛んな国なのだ。ちなみに日本の1次エネルギーに対する木質バイオマスの利用率は何パーセントあるのかを調べようと試みた。残念ながら0.1%もないことは確認できたのだが、それ以上は確認できなかった。オーストリアは協同組合方式の林業が盛んで、山の一括管理を行っている。だから針葉樹を植林するのも伐採するのも計画的にできる。そのため、機械化しやすく効率的に低コストの林業が行われてきたのだ。また、製材所も協同組合方式により大型で材をトータルに利用する方式が取られている。だから建築材の利用から端材はチップやペレットに加工して、バイオマス燃料に加工するから、廃棄物になるものなどないのだ。
一方、日本の山はどのようになっているのか。日本の民有林の多くは入り乱れた所有者から成り立ち、自分の山の材を切り出すにも一苦労だ。だから機械化もままならず、人力に頼ることが多いのだ。林業労働者がチェンソーで材を切るから、死亡事故などの重大事故も絶えない。このような非効率の林業を放置してきた大きな原因は、既得権益に安住してきた森林組合や林野庁、農水省の林業政策の無策に尽きると思う。
木質バイオマス・エネルギー利用計画
大分県立いいちこホールという建物が大分市に建っている。年間の冷暖房費が2000万円(実際の経費は分らない)とすると、その熱源は天然ガスだ。その熱源を木質バイオマス、つまりペレット(木の粉を固めた燃料)やチップ(木を破砕した燃料)のボイラーに変えるのだ。すると燃料代は割高になるかもしれない。2400万円かかることになるかもしれないし、ボイラーも高いだろう。しかし、ペレットやチップを作るために県内に雇用が生まれる。石油を使えば中東の産油国は潤うが大分県内にはお金はほとんど落ちない。天然ガスだから、この場合ロシアにお金が落ちる。かたや木質バイオマスを燃料にすれば県内に雇用が生まれ、その燃料を作るために間伐が促進されたり、間伐されたままに放置されている林地残材が山から下ろされるようになる。また、里山の雑木が利用されるようになるかもしれない。そこで山は元気になり、地球温暖化防止にも役立つのだ。
そこでもう少し具体的に試算してみた。天然ガスは大分ガスの利益になるのだが、2000万円の天然ガスで雇用が生まれるほどの影響はないだろう。石油にしても、ガソリンスタンドのアルバイトの雇用が0.5人ぐらいは生まれるかもしれないが、たかがしれている。しかし、ペレット燃料だったらまず、ペレット工場の雇用が1人は生まれるし、山仕事の労働者の雇用も1人は生まれる。だから経済効果は石油や天然ガスに比べて大きい。また、この雇用は直接消費地の大分県内に生まれるのだ。ましてや、中東やロシアに利益を持って行かれないですむ。
例えば、このような現象も生み出すかもしれない。過疎地域の村に住み仕事がないために生活保護を受給している失業者がいたとしたら、その人に林業の仕事が恒常的に入り、自治体は生活保護費が不要になるだけではなく、住民税などの税金が入ってくるようになる。また、失業していた労働者は働く意欲や生き甲斐を感じることができるようになる。このようなことを「グリーンニューディール」と言うのだ。だから県が400万円の持ち出しがあったとしても、結果としてそれ以上の利益が地域に落ちてくるのだ。
緊急雇用対策といって、昨年から市役所は短期の駐輪場の整理や、たばこのポイ捨ての監視、沖縄では遺骨収集のアルバイトまで行政が仕事を発注したというが、このような急場しのぎの雇用では、労働者は自分の人生設計など立てられない。それに比べて木質バイオマスの燃料化事業は長期でしかも正規雇用が約束される。これこそが労働者が安心して働くことのできる就労形態なのだ。また、このように先が見通せる安定した雇用は結婚や子どもを持つことの可能性も生み出す。つまり、このような新規事業により、雇用だけではなく少子化への歯止めにもなる可能性があるのだ。
私にいわせればこのような資源(スギやヒノキの間伐材)も豊富で外的条件(温暖化対策の必要性)が揃っていて、その結果、失業対策にもなり、少子化対策にもなる「グリーンニューディール」を行わない理由が理解できない。
このようなことはヨーロッパでは積極的に取り組まれている。スウェーデンでは総エネルギーの2割をバイオマスで賄っているし、ドイツやデンマークなどでもバイオマス発電やバイオマス熱利用が積極的に行われている。
私たちのささやかな実験①薪の販売
産業廃棄物として焼却処分される造園業者などがゴミ焼却場に持ち込む枝などの処分材を薪ストーブの燃料として利用する事業。大分市と別府市の造園業者約100社へダイレクトメールを送り、剪定材を無料で引き取ることを提案した。すると、2月現在、数社の業者が持ち込んでくれている。剪定材といっても立派な広葉樹で、それをゴミ焼却炉で燃やすことは不要な二酸化炭素を出すばかりではなく、生木は燃えにくいためゴミ焼却場の助燃剤にもならず、焼却コストがかかるだけのまさに「ゴミ」だ。また、造園業者にとってみれば、焼却処分費を負担しなければならないだけに経費節減になる。
また、大分市には「公園の剪定材を引き取らせてくれる」ように提案をしているのだが、まだ実現していない。公園の剪定などの作業は入札で業者を指名するが、その入札には剪定材の焼却処分費も計上されている。しかし、その焼却費用を計上せず、すべて我々の元へ運ぶような入札方法に変えれば、それだけで大幅な市税の節減になるのだ。
このような低コストの燃料に、里山の木を切って燃料として利用するという事業を合体させることにより、これまで困難だった里山の雑木の燃料活用を事業ベースに乗せることが出来るようになった。里山の木を切って薪にすることは採算が合わない。しかし、業者から無料で譲り受けた原料に非採算の雑木伐採を組み合わせることにより販売価格を抑えることが可能となった。現在、これらの薪は1立米18,000円で販売している。昨年度は約30立米の薪を売り、今年度は約40立米の薪を販売した。
のためのストックヤードへの保管などすべてのコストを合計すると、採算に乗せるのは非常に厳しい。そこで、人件費を抑えて、材の有効活用を図るには、手を加える前の造園業者が搬入した材をそのまま低価格で販売する方法を計画している。現在考えているのは軽トラ1台満杯に詰めて、2000円で直径10センチ未満の枝材を販売することや、10センチ以上の加工前の薪材は5000円で販売するなどのバリエーションに富んだ販売方法を準備中だ。
私たちのささやかな実験②ペレット販売
日本の石油代替エネルギーの将来を決定づけるほど重要なエネルギーが木質ペレット燃料だ。まずはペレット工場を誘致するためにはペレット燃料の需要の掘り起こしが必要。よく言われることがある。「ペレットストーブが売れないのはペレット燃料が身近で安く手に入らないからだ。また、ペレット燃料が売れないのはペレットストーブなどの需要がないからだ」と。つまり、ニワトリが先か卵が先かという問題と同じ。両方の需要を同時に産み出さなければ、この問題は解決しない。
そこで、まずはペレットストーブの販売とペレット燃料の取り扱いを始めた。大分でもペレットストーブはかなり普及していることを改めて知った。これまで複数の業者がペレットストーブを販売していた。また、ペレット燃料も日田・玖珠方面で販売されていた。このように大分県内でも20台から30台のペレットストーブが使われているようだ。また、湯布院ではペレットボイラーも設置されていると。
当NPOだけでも約20台のペレットストーブを2年間で設置できた。そのストーブへ燃料の供給も合わせて行ったので、ペレット燃料は20kg袋を昨年度は200袋販売し、今年度は540袋を販売した(2月13日現在)。昨年度は200袋の販売で灯油20リッター缶を100缶削減したことになるので、5トンの二酸化炭素を削減した計算だが、今年度は13.5トンの二酸化炭素を削減したことになる。2年で18.5トンの削減量になる。僅かといえば僅かだが、18.5トンは太陽光発電発電43kwの施設の1年間の二酸化炭素削減量に匹敵
バイオマスに興味持つ1人です
0
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nonukes at 2014-04-06 14:20
小林様 書き込みありがとうございます。
木質バイオマスが日本の林業を再生させる鍵だと私は思っています。
木質バイオマスが日本の林業を再生させる鍵だと私は思っています。
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辻重義
at 2015-11-30 03:31
x
私もあなたと同じように感じています!福岡県の三郡縦走試みた時に若杉山の杉山が昔日の面影もない有り様でした!これが水害の起因にもなっているのでないかでしょうか?
大学時代に砂防工学講義で聴いていたことが現実になっています!
水害防止にダムを作ることを強行しますけどね!
これはゼネコンのためにすかならないって思います!
私も土木関係で生計を立ててきたけどね!
残念ながらダム建設工事できるような大企業には関係なかった!
昔の人は治山、治水って言ってます。
これが本来の対策だって思います!
またメールします。
大学時代に砂防工学講義で聴いていたことが現実になっています!
水害防止にダムを作ることを強行しますけどね!
これはゼネコンのためにすかならないって思います!
私も土木関係で生計を立ててきたけどね!
残念ながらダム建設工事できるような大企業には関係なかった!
昔の人は治山、治水って言ってます。
これが本来の対策だって思います!
またメールします。
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nonukes at 2015-12-03 10:24
辻重義さま書き込みありがとうございます。
そうですね。日本の公共工事は日本中の海や山や河をセメントで固める公共工事しかしていません。戦前までの公共工事は特に江戸時代は河をわざと溢れさせて共存するという治水工事が普通に行われていたと言われていますよね。治山も実のなる木を植えて、鳥が実を食べて、その糞の中の種が山の頂上まで木を植えてくれるという話にはほのぼのとした悠久の時間を感じたものです。
先日NEDOの主催の風力発電の環境アセスメントの説明会で千葉大学の女性教授、名前は忘れましたがのお話が印象的でした。
「景観十年、風景百年、風土千年」というお話です。それぐらい長い時間をかけなければ風景や風土はつくれないのです。
そうですね。日本の公共工事は日本中の海や山や河をセメントで固める公共工事しかしていません。戦前までの公共工事は特に江戸時代は河をわざと溢れさせて共存するという治水工事が普通に行われていたと言われていますよね。治山も実のなる木を植えて、鳥が実を食べて、その糞の中の種が山の頂上まで木を植えてくれるという話にはほのぼのとした悠久の時間を感じたものです。
先日NEDOの主催の風力発電の環境アセスメントの説明会で千葉大学の女性教授、名前は忘れましたがのお話が印象的でした。
「景観十年、風景百年、風土千年」というお話です。それぐらい長い時間をかけなければ風景や風土はつくれないのです。
by nonukes
| 2013-12-11 00:02
| 林業再生
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