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小坂正則の個人ブログ

「市民電力会社」を作るためには何をしなければならないか?

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市民電力会社とは

「市民電力会社」という概念は今はまだ日本では確立していません。しかし、311福島原発事故以来、原発事故の悲惨さや放射能への恐怖から、原発の電気を使いたくないという多くの市民が思うようになりました。そこで、既存の電力会社に頼らずに、「自分たちで電力会社を作りたい」という思いから、そのような夢を叶えたいという人々が「市民電力会社を作ろう」といった呼びかけなどが広がってきたのです。特に、ドイツの「シェーナウの想い」という映画が日本でも上映されて、「市民電力会社」という言葉が日本でも認知されてきたという理由もあるでしょう。ドイツの「シェーナウ電力会社」は自分たちのことを「市民電力会社」と呼んでいます。シェーナウは「市民電力会社」という概念を①販売する電力の内、半分以上を再生可能エネルギーにより供給していること。②営利を目的にした電力会社ではないこと。などを概念の裏付けとしています。ドイツでは4つの市民電力会社がすでに存在しています。その中でも一番大きい電力会社が「シェーナウ」です。全国に約13万の顧客を持っています。 日本では電力自由化の範囲が大口需要家やコンビニなど、50kv以上の中口の需要家までの電力自由化は進んでいますが、それ以下の一般家庭などの自由化は認められていないため、ドイツのような一般家庭の電力消費者が既存の電力会社の電気ではなく、「再生可能なエネルギーによって出来た電気を買いたい」と思っても買うことはできません。その大きな障害となっている制度が「電力地域独占」という電気事業法による規制があるからです。電力会社を作って自由に電気を販売したいと思っても、送電線を新しく全国に張り巡らせることは非現実的ですし、また、膨大なコストがかかり、不可能で設備の無駄です。そこで、電力自由化のためには「発送電分離」というシステムに電力事業を切り替える必要があります。「発送電分離」とはわかりやすく言えば、発電会社と送電会社を別々に分けて、送電線は公共インフラとしてみんなでその維持コストを負担して、発電会社が、それぞれの個性を出しながら自由に競争するという社会システムです。この場合、発電会社が直接個人に売電するのではなく、発電会社から電気を買って、その電気を売電するなどという会社も出来ます。ドイツのシェーナウはスエーデンの水力発電会社から電気を購入して、その電気をドイツ中の電力消費者へ販売しています。 日本でも「発送電分離」を前政権の民主党は早急に実施するという公約を掲げていましたが、自民党政権に変わって、今年の通常国会で法案を通すことに消極的になり、「発送電分離」関連の法案は棚上げにされました。自民党安倍政権は「発送電分離」は2018年までにめどを付けるというように発言して、民主党の主張よりも後退した感があります。 また、市民電力会社実現のためには必ず必要な法律である「発送電分離」も、電力会社から送電会社を別の会社として完全資本分離から電力会社の子会社とする方法など様々です。ただ、自民党が原発依存にエネルギー政策が大きく後退しようとも、発送電分離は避けては通れない道だと言われています。と言うのも、OEC加盟34カ国で、発送電分離が出来ていない国はメキシコと日本だけだと言われているからです。

日本国内での「市民電力会社」設立の動き

電力自由化の流れと、昨年2012年7月に実施された「電力固定買い取り制度」により、太陽光発電などの設置の爆発的な拡大があります。特に、これまで太陽光発電などは一般家庭を中心にひろがっていましたが、昨年から投資家や大企業の参入がめざましく進んでいます。特に通信大手のソフトバンクやKDDIやNTTなどはこぞって電力事業への参入を決めています。これらの企業はもともと大口電力需要者でもあり、通信事業と発電事業は事業形態がにていることがあるのかもしれません。また、この間、独立系の電力会社は全国にたくさん出来ていますし、これらの企業の大半は電力会社へ電力を供給する卸電力事業会社(IPP)が大半ですが、中には大口企業へ直接電力を供給している特定規模電力事業会社(PPS)もすでに全国で数十社は出来ています。しかし、それらの会社の売電割合は既存の電力会社の1%から3%未満といったもので、既存の電力会社を脅かすまでの規模ではありません。 しかし、これまで「クリーンな電気を買いたい」という市民や企業の欲求は満たすことは出来なかったことから、クリーンな電力を供給する「市民電力会社」をつくろうという動きは全国で市民や生協などにより始まっています。しかし、現在では「発送電分離」の法律が出来ていないため、2018年以降の設立に向けて、再生可能な電力を作って、電力会社の売電するという方法や、自家消費することで、法律が出来るまでの助走期間だといった考えで起業化を進めている状況だと思われます。

「市民電力会社」を作るための問題点

市民電力会社を設立するための大きな問題を3つあげてみましょう。1つは「託送料」の問題です。多くの新電力会社(PPS)の電力供給会社が僅か1%そこそこしか販売できていないのは、託送料が高いからです。託送料とは電力会社の送電線使用料金のことを言います。この価格が不当に高く設定されているのです。なぜなら地域独占の現状では送電線の利用料は電力会社の言いなりだからです。だから送電線利用料金を高く設定しておけば、新規参入の新電力会社を不利な条件にさせることが出来るのです。高圧電力の自由化が導入された当初は1キロワットあたり3.5円という高額な使用料金を電力会社は主張していました。現在は2円以下の料金に下がっているようです。しかし、電事連は「一般家庭まで自由化が進む場合には高圧送電線の託送料に加えて配電線の利用料金も同じように徴収しなければならない」と記者会見していました。つまり、3.5円の高圧送電線使用料金に配電線使用料金3.5円ならば1キロワットあたり、7円もの送電線使用量を徴収するというわけです。一般家庭の電気料金が24円とすると、そこから7円の託送料を徴収されたら残りは17円です。ここから利益を出すためには10円以下の原価で電力を作るか購入しなければならなくなるのです。これは新規参入事業者への参入を妨害する以外の何者でもありません。 次に大きな問題は負荷平準化の問題です。電気は貯めておくことが出来ないため、現在の需要に見合うだけの供給をしなければなりません。需要に対して供給が追いつかなければ変電所がパンクして大停電を引き起こすきっかけとなるからです。そこで新規参入の新電力会社にも、その会社の需要に応じて30分ごとに需要の数パーセント以内範囲の需要供給の一致体制を行うことを義務づけているのです。これが実に大変なコストになっています。ファースト・エスコという新電力会社では横浜の天然ガス発電所で負荷追従運転を行っているそうです。電力需要者はそれぞれの会社によって電力を大幅に使ったり、使うのをやめたりしますね。工場など昼間は操業のために電気は使いますが、夕方に操業をやめれば電気は不要です。そのような日々刻々と電力消費が変化することに対して、小さな電力会社まで負荷平準化をする必要はないのです。そのような負荷平準は大手の電力会社が行えば、小さな受給関係の会社は免除されるべきなのです。小口の電力供給は全体から見れば大きな影響を与える可能性が少ないからです。この仕組みは完全自由化が実現するまでにはクリアーさせなければなりません。競争を阻害する大きな壁です。 次に現在の50KVまでの自由化の中で行われる中で、電力自由化のための仕組みとして電力会社の会計分離という仕組みが出来ました。これは経理を発電と送電の事業ごとに計算して、託送料金を公正に算出するための仕組みだと言われているのです。でも、福利厚生施設が発電部門の経費か送電部門の経費かなどは内部でいくらでもごまかすことが出来るのです。自由化を進めるためにこの仕組みとともに導入されたものがあります。「秘密保持」という指導です。どんなことかというと、電力会社と新電力会社は公正な競争を行うために、新電力会社が新規事業者と電力販売契約を結ぶと、そこにある既存の電力会社へ託送の申請をすることになります。するとそのこ既存の電力会社の送電担当者はどこの会社がどれだけの規模の電力を契約したのかという「情報」を入手しますが、その情報は同じ既存の電力会社の電力販売担当者へ「情報提供してはならない」と決められているのです。だから同じ会社の中で同じ同僚へ「情報提供」してはならないと言われてもそんなこと誰が守るでしょうか。会計分離や自由化のための仕組みがいかにザルであるかという一例です。

電力会社による新規参入いじめ?不明朗な実態

そのほかこんな例などからも、地域独占事業がいかに公平な競争を阻害していて、新規参入を邪魔しているかという例をご紹介いたしましょう。
現在、10KW未満の家庭用太陽光発電は電力会社へ申し込めば経費なしで系統連携してもらえますが、10KW以上の売電目的の太陽光発電などは電力会社へ申し込んでも「送電線の供給が一杯で系統連携できない」と言われて売れない状況が続発しています。しかし、その中身は全く不明です。本当に技術的に買えないのか、買いたくないのかは私たちには裏付けを取ることは出来ないのです。また、系統連携するためには電力会社の変圧器を変えたりする必要があります。そのための経費は設置者が負担することになっていますが、この内訳は全く公表されていません。電力会社の言い値を設置者は支払っているのです。私も今回「てるてるちゃん10号」47KWという太陽光発電所の建設を行っているのですが、その系統連携の申し込み金額が60万円でした。明細も何もなくただ60万円の請求書が来たのです。安いところでは18万円という方もいたそうです。だから地域によってバラツキがあるのです。この地域の担当者は安くて、あの地域の担当者は高いといのが業界では噂になっています。 以上のような矛盾点は、公平に競争できる仕組みや不公平が生じた場合の異議申し立ての場などを設置して、新規参入者が有利になる仕組みを全面自由化までに作り上げることが必要です。そのためにもこの「市民電力会社」の実現までの間に多くの研究者やマスコミなどによる活発な議論が公開の場で行われることが不可欠です。そのためにも私はこれからも声を上げていきたいと思っています。

「市民電力会社をつくろう」影書房発行 1575円
Commented at 2013-08-17 14:52 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by nonukes | 2013-08-11 19:05 | 市民電力会社をつくろう | Comments(1)

  小坂正則

by nonukes