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小坂正則の個人ブログ

読売新聞社説「原発ゼロは戦略に値しない」批判・山崎久隆氏

『エネルギー選択 「原発ゼロ」は戦略に値しない(9月15日付け読売社説)』を批判する -- 原子力産業の広報紙・読売新聞の大きなまちがい
 (たんぽぽ舎 山崎久隆)より転載しました
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 政府が「エネルギー・環境戦略」を発表したとたん、経団連や連合などの
 原発利権団体から一斉に反発が広がった。マスコミでは、予想通り原子力
 産業の広報紙、読売新聞がさっそく社説でかみついた。

 この読売社説に反論をする。

★ ◆経済・雇用への打撃軽視するな◆
│ 電力を安定的に確保するための具体策も描かずに、「原子力発電ゼロ」
│を掲げたのは、極めて無責任である。
│ 政府は「原発ゼロ」の方針を撤回し、現実的なエネルギー政策を示す
│べきだ。

 電力の安定供給についてのシナリオが責任を持って書けるのだったら、既に
とっくに脱原発社会になっていることだろう。大飯原発も、その他の原発も
「電力不足」の脅しにより再稼働を「せざるを得ない」ことになっている。実
態は全く別であるが、電源確保ができているのならば、そもそも再稼働問題な
ど起きない。
 現実的なエネルギー政策を「示せ」というならば、まず国内の技術や高い志
を持つ企業を取材してからにしたらどうか。省電力設備の積極的な展開がこれ
から始まるだろう。これが国内重・家電産業に大変な利益をもたらすことは、
実証済みだ。もちろん、企業や一般家庭の設備投資にインセンティブを与える
ために大胆な税制面での施策などが必要かもしれない。あるいは、良い方法と
は言えないがエコポイント制度のような方法も再検討する余地がある。
 要はアイディアの問題であり、最初から「無責任」などと取り組みに後ろ向
きでは何も起きるわけがない。
 読売はどうしたわけか、電力のみ国家統制で良いと考えている。しかし民間
企業による様々な取り組みが今必要なのだが。そのうえエネルギー国家統制を
説く記述振りには大きな違和感を感じる。

★ ◆肝心な部分は生煮え◆
│ 古川国家戦略相は記者会見で、「原子力に関する問題点を先送りせず、
│真摯(しんし)に取り組む姿勢を示した」などと意義を強調した。
│ しかし、東京電力福島第一原発の事故を受けて抜本的に見直すとして
│いた将来の電源構成については、全体像を示せなかった。
│ こんな生煮えの“粗案”では、国家のエネルギー戦略に値しないと言
│えよう。
│ 太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を、現在の約1割から3
│割に増やすとしているが、肝心の実現策は年末に先送りした。
│ 原発の代替電源を確保する方策の中身も詰めずに、約20年先の「原
│発ゼロ」だけを決めるのは乱暴だ。
│ 次期衆院選を前に「脱原発」の旗印を鮮明にした方が民主党に有利に
│なる、と計算したに過ぎないのではないのか。初めに結論ありきと言わ
│れても仕方あるまい。

 このまま原発をゼロにして、減った電力を火力の炊き増しだけでまかなおう
としたら、当然「石油、天然ガス購入価格としての価値の流出」を招くだけな
のは常識の範囲。そうならないために、まず火力の高効率化を行う必要がある。
熱を電気に変換する効率を上げるだけでなく、熱源としての利用なども積極的
に技術開発を行う。さらに数度程度の都市廃熱を電気に変換する素材が開発さ
れているが、これに投資すれば価値は国内にも残ることになる。これもまた、
何もしなければ何も起きないだけのことである。それが「あらゆる政策資源を
投入する」ということだ。原発によって発電していた分を丸々削減するくらい
のことを考える時代なのだから。

│ 有識者会議による検討結果や経済界からの指摘に対応していないのも
│問題である。
│ 各種の試算は、「原発ゼロ」にするには、再生エネ拡大に50兆円、
│省エネに100兆円を要するとしていた。国内総生産(GDP)は50
│兆円近く落ち込み、失業者も200万人増加する見通しだ。
│ だが「戦略」には、「あらゆる政策資源を投入する」とあるだけで、
│課題の解決策がない。
│ 経団連の米倉弘昌会長は、「原発ゼロ」方針について、「雇用の維持
│に必死に頑張っている産業界としては、とても了承できない。まさに成
│長戦略に逆行している」などと、厳しく批判した。
│ 電力不足と生産コストの上昇で産業空洞化が加速し、国民生活が脅か
│されかねないためだ。

 各種試算に、どれほどの根拠があるというのか。だいたいが、これまでの試
算は電力需要も含めて全く外れていた。右肩上がりの電力需要を前提とした設
備計画には全く根拠はなかった。
 単純に今の電源構成から原発を外し、その分を火力の炊き増しなどでまかな
うといった硬直した試算をいくらしていても現実離れするだけだ。日本では誰
も工夫もせず唯々諾々と倍以上になる電気料金をそのまま払い続け、多くの企
業が海外に移転すると本気で考えているのだろうか。
 なお、再生エネ拡大に50兆円も掛けたら、その産業は大変な利益を得るこ
とになり、省エネに100兆円も投資したら、省エネ関連産業は事業の大幅拡
大を行うだろう。それこそ200万人の雇用創設ができるのではないか。実際
のところ電力会社の売り上げは年間”たったの”10兆円である。どこにそん
な規模の経済損失があるというのだろう。そんな規模の損失が予測されたら、
PPSどころか、新しく発電所を建設する企業が増えるだけである。
 経団連会長など、旧財閥系産業の既得権益を守るための「難癖」に答える必
要などない。そろそろ経団連などの経済(圧力)団体も退場願いたい。

★ ◆矛盾だらけの内容◆
│ 現在、全原発50基のうち48基が定期検査の終了後も再稼働できな
│い状況が続いている。

 稼働できないのは当たり前である。まさか読売はこのまま稼働させるべきと
考えているのだろうか。であれば、どのようにして福島第一原発震災を繰り返
さない対策が取れるのか具体的に示す責任がある。ほとんどの原発で耐震設計
審査指針見直し後のバックチェックさえ済んでいない現実を知らないのだろう。
 福島第一原発震災を踏まえて安全を確保するとした政府方針に則っても、再
稼働には最低2年はかかる。まして基準さえまだできてもいない。実際には推
進派ですら稼働したくてもできないのが現実だ。

★ 火力発電の燃料費が年3兆円も余計にかかっている。このままでは東
│電以外の電力会社も電力料金の値上げが避けられない。
│ 火力発電の比率が高まれば、政治的に不安定な中東に多くのエネルギー
│を依存する状況も続く。

 矛盾だらけなのは読売社説である。
 火力燃料費は今の効率のままでは費用が経営を圧迫し、立ちゆかないことは
誰にも分かっている。価格の安い産地の天然ガスを、電力会社単独ではなく複
数の異業種企業が組んで買い付ける動きも急速に進んでいる。老朽火力は止め、
高効率火力へのリプレースも既に始まっている。危機を前に黙って指をくわえ
て見ているわけがないじゃないか。
 電力料金を押し上げる要因は、火力の燃料代にあるのではなく止まった原発
の維持費で莫大な資金を投じなければならないところに原因がある。そもそも
原発を導入した結果であることは、関西電力と中部電力の決算報告を見れば明
らかである。
 関西は原発に依存していたため莫大な経費が原発の維持にかかることから、
大幅な赤字を計上しているが、もともと浜岡原発の3基のみ、おおむね11%
程度のシェアしかなかった中部電力は、ここにきて決算の赤字は関電の4分の
1だ。(*下記にデータ掲載。中電は関電の80%の売り上げ規模で赤字の規
模は関電の25%程度である。2012年の中電売り上げが関電のそれよりも大き
く伸びていることに注意。)
 電力会社が赤字になるから原発を稼働せよというのだろうか。本末転倒もは
なはだしい。
 原発を抱えたままでは全電力会社は経営危機に陥り、既存の停止した原発の
安全性さえ脅かされるのは事実である。そのためには原子力産業を廃炉や核廃
棄物管理の機構に移す必要がある。
 日本が輸入するエネルギー資源のうち、発電に使われる石油などの化石燃料
は実際にはわずかで、中東依存度は原発を再稼働しても下がることはない。石
油や天然ガスは、多くは輸送機関の燃料やガス事業に使われている。原発が稼
働してもしなくても中東依存度が大幅に増えたり減ったりするわけではない。
むしろこの間の、火力燃料の調達先多様化(シェールガスを米国から、など)
で中東依存度は今後下がると見られるのだ。それは原発停止に伴うエネルギー
浪費構造や調達先の見直しが大きい。結局は原発依存をやめることがきっかけ
になっている。

★ 「戦略」が、安全性を確認できた原発を重要電源として活用する方針
│を示したのは妥当である。電力安定供給のため、政府は再稼働の実現に
│努めねばならない。
│ それなのに政府は「原発ゼロ」をうたい、わざわざ再稼働に対する地
│元の理解取り付けを困難にした。ちぐはぐな対応だ。関西電力大飯原発
│の再稼働を容認した福井県の西川一誠知事も、政府の方針転換に不信感
│を表明している。

 そもそも原発を再稼働できると思っているとしたら「楽観的に過ぎる」とし
か言いようが無い。オスプレイ問題も同じで、このまま強引に動かそうとして
も地元が同意しない。大飯原発は例外中の例外だ。例えば柏崎刈羽が再稼働で
きると思っているのだろうか。原発をゼロにと言ったから地元が同意しないの
ではない。そもそも原発を動かすことに地元が同意しないのだ。そんなリスク
を誰も冒したくない。この文章は、そのことをすり替える論理だ。

★ 核燃料サイクル政策を継続しながら「原発ゼロ」を目指すというのは、
│明らかな矛盾である。
│ これでは、再処理で作った核燃料の使い道がなくなる。
│ 国策の核燃サイクルに協力してきた青森県からは、使用済み核燃料の
│受け入れ拒否を求める声も出ている。不誠実な政府方針に対する青森県
│の怒りはもっともだ。
│ 青森県が協力を拒否すれば、使用済み核燃料の保管場所がなくなり、
│各地の原発は早晩、運転を続けることはできなくなろう。
│ さらに、原子力の技術者になる人材が激減し、原発の安全性向上や、
│今後の廃炉作業に支障をきたす恐れもある。

 青森県が再処理を拒否するのは当然の権利だ。原発を止めるなら再処理を止
めるのは道理である。だから再処理を拒否することは正当な権利であり、それ
を元に作る燃料、プルトニウム燃料の製造工場を1300億円で作るのも中止
すべきである。プルトニウムは安全に管理することと国際管理に移すことを政
府は真剣に取り組むほかはない。
 なお、そんなことは再処理をしようとしまいと変わらない責務である。
 原発をゼロにすることを決めるならば、原発の使用済燃料が一杯で稼働でき
なくなっても困ることはない。原発を廃止する理由の一つになるだけだ。

★ ◆日米同盟に悪影響も◆
│ 日本が核燃料の再処理を委託している英仏両国も、日本企業が持つ原
│発技術に期待する米国も、強い懸念を示している。
│ 米国は日米原子力協定に基づく特別な権利として、日本に使用済み核
│燃料の再処理を認めている。「原発ゼロ」を理由に、日本は再処理の権
│利を失いかねない。
│ 米国が、アジアにおける核安全保障政策のパートナーと位置づける日
│本の地位低下も心配だ。
│ 日本が原発を完全に放棄すれば、引き続き原発増設を図る中国や韓国
│の存在感が東アジアで高まる。日米の同盟関係にも悪影響は避けられま
│い。
│ 国際社会との関係抜きに、日本のエネルギー政策は成り立たないこと
│を、政府は自覚すべきだ。

 一番に理解不可能なのは日米同盟を持ち出していることだ。日本のエネル
ギー政策が日米同盟とどう関わるというのか。核拡散防止の技術や知見ならば、
原発を推進していようといまいと維持できるし、そうすべきだろう。(現実に
オーストラリア、オーストリア、ノルウェー、原発無しで核拡散防止に貢献し
ている国は挙げればいくらもある)
 だが、ここで言っているのはアジアの原子力開発国との競争に負けるといっ
た理屈だ。国際社会に対して原発(核)をなくし、安全で軍事転用つまり核武
装につながるようなエネルギーシステムを導入、拡大しないでも良いように新
しいエネルギー資源の共同開発や技術の移転を計れば良い。
 この文脈で唯一理解可能なのは、核武装国の米国と共に核戦力の近代化と将
来の日本の核武装を想定した同盟関係の強化でしかない。そのような未来図は
暗黒なだけだ。いわゆる「核抑止力のための原発推進論」と軌を一にする主張
は、アジアの平和と安定を阻害するだけのものである。
 米国のシンクタンク「国際戦略研究所」による第三次ナイ・アーミテージレ
ポートの原発部分に記述された主張とほとんど同じ考え方である。
 正力松太郎の時代から、米国の世界戦略を維持発展させるために、この新聞
は存在すると考えざるを得ない。

*関電と中電の2011及び2012年度決算比較
 関西電力
 売上高   2012 2兆8114億円  2011 2兆7697億円  差  417億円
 営業利益      ▲2294億円      2739億円  差▲5033億円
 
 中部電力
 売上高   2012 2兆2951億円  2011 2兆1783億円  差 1168億円
 営業利益      ▲505億円       1579億円  差▲2084億円


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by nonukes | 2012-10-12 10:44 | 脱原発大分ネットワーク | Comments(0)

  小坂正則